メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

RSS

手法がなくても研究者には地震予測が求められる

1976年に「駿河湾地震説」を出した石橋克彦・神戸大学名誉教授に聞く

瀬川茂子 朝日新聞編集委員

拡大石橋克彦・神戸大名誉教授

  東海地震の発生を予知して「警戒宣言」を出す体制は終わり、昨年11月から気象庁が臨時情報を出す暫定的な体制が始まった。情報の受け方の仕組みは決まらず、警戒宣言体制をつくった「大規模地震対策特別措置法(大震法)」の位置づけも中ぶらりんのままだ。大震法制定のきっかけになった「駿河湾地震説」を唱えた神戸大の石橋克彦名誉教授に話を聞いた。駿河湾地震説は、遠州灘で発生するとされていた東海地震の震源域が、駿河湾周辺になると指摘した説だ。1854年安政東海地震では駿河湾が震源域に含まれているのに、1944年昭和東南海地震では割れ残っており、駿河湾地震が切迫している可能性があるとした。

 ――東京大の助手時代に提唱された「駿河湾地震説」がきっかけになり大震法ができるなど、研究成果が社会に影響を与えた点についてどう思われていますか。

 石橋名誉教授 1976年5月24日、地震予知連絡会(予知連)で駿河湾地震説を提出した。予知連メンバーの東京大の浅田敏教授が、「大事な報告なので読んで下さい」と私の手書きのレポートを配った。その翌日、浅田教授の手伝いで静岡県の観測網のメンテナンスに出かけた。静岡県庁の技官がついてきてくれたので、「東海地震で大変ですね」と話すと、「遠州灘の沖合の話だから、たいしたことはない」と言われた。それが非常にショックだった。駿河湾西岸の直下で巨大地震が発生する可能性を考えていたので、なんとかしないといけない、声を大にして社会を動かさないといけないと思った。新幹線や東名高速道路も被害を受け、静岡県だけでなくて国家的大災害になると考えていたからだ。

拡大駿河湾地震説を受け、防災対策を始めた静岡県で、住民の防災訓練を見守る山本敬三郎知事=10976年10月
 予知連では、駿河湾地震説は真剣に受け止められた。これはたいへんだということになった。社会が直下型巨大地震の危険性に気づいて動いたので、報告してよかった。大震法は別として、いまでもそう思う。

 ちょうどそのころ、1944年の東南海地震の直前に、掛川で測量中に異常な変動を見つけた技師の手記が発表された。すごいタイミング。次の東海地震の前にも、同じようなことが起こると多くの人が思い、私も地震予知ができる可能性が高いと考えた。防災のため、学問のためにもそのチャンスを逃してはいけないと強調した。ただし、この異常な変動は現在では疑問視されている。

 10月の地震学会の予稿に、東海地区地震予知防災センターを作れと書いた。観測網を強化して、データを集中・監視し、判断して、結果を社会へ発信する。判断をして終わりではどうしようもない。地震学的な観測研究や解析結果を社会に役立てるルートや仕組みについて議論を始めなければいけないと思った。

 ――予知ができると思われたのですか?

 石橋名誉教授 前兆現象はあると思っていた。地震学の歴史の中で、いちばん地震予知研究熱が高いときでもあったですし。現在では、東南海地震前の掛川のデータは疑わしいとされている。2003年の十勝沖地震の前兆はなかった。2011年の東日本大震災でも誰が見てもこれが前兆だというものはなかった。だからといって、東海地震が必ず不意打ちで起こるとは言い切れない。万が一、異常な現象が観測された時にそれを生かす道、何かできる余地は残したほうがいいと思う。

 ただし、大震法のように、予知ができるの一点張りで、予知できないケースを考えないのはおかしいと、法律ができた時から思っていた。空襲警報が出てから爆弾が落ちることもあれば、警報なしに落ちることもあり、両方の場合に備える必要があるというたとえ話をしていた。私は、1977年11月に建設省建築研究所にうつり、東海地震関連の情報も聞こえてこなくなり、研究の対象も変わったので、大震法にかかわることはなかった。

地震予測はマニュアルではできない

 ――大震法に基づく「警戒宣言」のかわりに、昨年11月から運用が始まった南海トラフの臨時地震情報について、どう思いますか。内閣府のワーキンググループがまとめた報告書により、情報が出るタイミングは、ケースに分けて想定されました。

拡大南海トラフ地震のケースごとの避難の考え方
 石橋名誉教授 南海トラフの東側で大地震(東海地震)が発生して、西側で大地震の続発が予測されるケース1では、「南海トラフ沿いの地震に関する評価検討会」が開かれる前に、大地震が発生するかもしれない。東海地震で震度5強の揺れに襲われた地域が、今度は震度6強以上の揺れに襲われる可能性がある。内陸地震が広い範囲で続発する可能性もある。気象庁は臨時情報の枠組みにとらわれずにどんどん情報を発表して、注意をよびかけたほうがいい。

 このケース1や、ケース2の南海トラフ巨大地震の震源域でM7級の地震が発生した場合、続発する大地震の予測を確率で評価できるとしているが、あまり意味があるとは思えない。 ・・・続きを読む
(残り:約1589文字/本文:約3562文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。
デモクラシーやJournalismの記事も読めるのは全ジャンルパックだけ!


筆者

瀬川茂子

瀬川茂子(せがわ・しげこ) 朝日新聞編集委員

1991年朝日新聞社入社。大阪本社科学医療部次長、アエラ編集部副編集長などを務める。共著書に「脳はどこまでわかったか」(朝日選書)、「iPS細胞とはなにか」(講談社ブルーバックス)、「巨大地震の科学と防災」(朝日選書)など。

瀬川茂子の新着記事

もっと見る