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沖永良部島タイワンキンギョ保全運動が未来遺産に

在来種か外来種かだけでは決まらない保全の是非

松田裕之 横浜国立大学大学院環境情報研究院教授、Pew海洋保全フェロー

沖永良部島のタイワンキンギョ(九州大学決断科学プログラム鹿野雄一准教授提供)
 沖永良部島にタイワンキンギョまたは闘魚(トウギョ)と呼ばれる淡水魚がいる。コイ目のキンギョと異なりスズキ目のゴクラクギョ属で、熱帯魚パラダイスフィッシュとして広く飼育されている。オスが縄張りを持つ種で、縄張り内に入る他個体を威嚇、攻撃する性質があり、オス同士を闘わせるために飼育されることも多い。

 かつて島の水田やその周辺にごく普通に生息していたが、水田の減少によって野生個体群が減少していることを踏まえ、子どもたちとともに湧水池「ジッキョヌホー」の保全などを通じて地域固有の自然環境や文化の継承に取り組むというのがNPOファングル塾による「子供と命をつなぐジッキョヌホーのトウギョの里プロジェクト」である。これが2017年12月に日本ユネスコ協会連盟のプロジェクト未来遺産に選ばれた。これを機に、外来種問題の考え方を改めて整理してみたい。

日本と台湾では絶滅危惧種

 タイワンキンギョは日本では沖縄県石垣島、沖縄島、渡嘉敷島、久米島 と鹿児島県沖永良部島に野生個体群がいて、環境省レッドリストでは絶滅のおそれのある野生生物のIA類となっている 。国外では台湾、中国、東南アジアなどに分布している。東南アジアを含めた種全体としては普通種だ。しかし、台湾でも日本同様に絶滅危惧で、野生生物保護法の指定生物となっている。

 沖縄県の本種が江戸時代より前に移入したのか、在来種なのかは定かではないものの、台湾や中国の南部の一部とミトコンドリアDNAはほとんど変わらず、古い時代に人為的に沖縄に導入された可能性が高い。沖永良部島の個体群は80年前には生息し、島の生物相の一部となってきた。定着した外来種である可能性が高い。

 生物多様性基本法の目的は、自然の恵みを将来にわたり享受できる社会を実現することとされる。必ずしも、個々の外来種の侵入や在来種の絶滅が自然の恵みを損なうという明確な根拠があるとは限らないが、予防原則の観点から、在来の生態系を撹乱するか、人間生活に有害な外来種は駆除や根絶の対象であり、絶滅危惧の在来種は保護の対象となる。

2009年に始まった未来遺産運動

 九州大学決断科学プログラムによると、沖永良部の稲作は、減反政策等により全滅し、サトウキビ畑などに転作された。タイワンキンギョの存在は、失われつつある水田に代表される湿地帯の指標であり、一方で在来生態系を撹乱する特に顕著な影響は知られていない。また、台湾の個体群が絶滅したときに再導入を図る役割を果たせるかもしれず、何より「闘魚」としての文化遺産価値が認められる。よって、保全生態学者の間でも、保全対象とみなされている

 未来遺産運動は、長い歴史を超えて人々が紡ぎ続けてきた文化遺産や、自然とともに生きる知恵や工夫の中でつくりあげてきた自然遺産という豊かな贈り物に光を当て、地域の文化・自然遺産を未来に伝える市民の活動を応援し、それらを未来に伝えていこうという人々の意欲を活性化させることによって時代を切り拓いていくことを目的とし、2009年から2017年までに計66件が認定されている。

沖永良部島知名町の集落に維持された湧水池「ジッキョヌホー」
鹿児島県サイト より

 これは、世界遺産などのようにユネスコ(国連教育文化科学機関)本部が認定する制度ではない。

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