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軍事研究に関する日本学術会議声明の今後

「他人事」ととらえる大学人が多い現状を打破すべし

井野瀬久美恵 甲南大学文学部教授

 日本学術会議は2017年3月24日、「軍事的安全保障研究に関する声明」(以下、2017年声明)を発出し、「戦争を目的とする科学研究は絶対に行わない」とした1950年、1967年声明の継承を明言した。その半年余り後の10月2日、新会長に選出された山極寿一・京都大学総長は議論を続けると語り、12月22日のメディア懇談会では各大学の対応についてアンケートを実施すると話した。2017年声明に学術会議副会長としてかかわった立場から、発出までの経緯を振り返り、これからの議論で大切なことは何かを考えてみたい。

防衛装備庁の研究推進制度が直接のきっかけ

拡大日本学術会議の安全保障と学術に関する検討委員会=2017年3月7日、東京・乃木坂の日本学術会議、嘉幡久敬撮影
 2017年声明を策定した「安全保障と学術に関する検討委員会」(2016年5月設置)は、防衛装備庁の「安全保障技術研究推進制度」を直接の契機として立ち上げられた。設置趣意書にはデュアルユース(軍民両用)や学術研究の公開性・透明性を含め、5つの審議内容が上がっているが、この問題をめぐる論点は多様、多層、ゆえに曖昧さを内包している。たとえば、アメリカ国防高等研究企画局(DARPA)の例にならい、「デュアルユースはイノベーションを牽引する」との意見もあれば、「DARPA型研究資金のあり方は日本になじまず、むしろ危険」との見方もある。ここに、「軍事/民生」はもちろん、「自衛・防衛/攻撃」「良い科学(者)/悪い科学(者)」「基礎/応用」といったさまざまな論点が重なれば、委員会として収拾がつかなくなることは目に見えていた。

拡大安全保障技術研究推進制度の研究テーマ例(2016年度)
 この研究推進制度は、2017年1月早々に前年度の20倍近い予算が確定した。公募開始前に声明を策定しなければならないという時間的制約のなかで、「何を発出すべきか」の立脚点は「学問の自由」に落ち着いた。憲法23条に掲げられた「学問の自由は、これを保障する」というシンプルな13文字は、学者たちの戦争協力という過去への反省を核として、「学術の民主化」過程で設立された「日本学術会議」という組織の原点である。そこに立ち返るという意味においても、適切な着地点であったと思う。

 検討委員会の委員として全ての会合に出席した私は、歴史研究者としてのサガだろう、草創期学術会議の総会速記録を読み込み、2つの声明採択への動きを時系列で見直した。そして、最初の1950年声明が、核兵器の恐怖を最もよく知る物理学者らを中心としたグローバルな平和運動を受け、日本の大学人・知識人らが市民レベルの運動とも連動することによって、冷戦体制へと突き進む世界情勢のなか、実に際どいタイミングで可決されたことを確認した。言い換えれば、かつての学術会議声明は「時代の世論」に支えられていたのである。

学術会議の内部にもあった賛否両論

 「戦争を目的とする研究は行わない」という過去の二つの声明の継承を宣言した2017年声明は、政府による研究者への介入が強まることへの懸念を表明し、大学等の各研究機関に対して研究の適切性を目的、方法、応用の妥当性の観点から技術的・倫理的に審査する制度を設けるべきだと提言している。学協会等にガイドライン等を設定してほしいという要望も入れている。

 この声明は、軍学共同の実態を見直し、軍事研究に一定の歯止めをかけたと評価・歓迎される一方で、イノベーションにつながる科学・技術研究の進展を阻害するとして批判も浴びた。

 もっとも、こうした賛否両論は、個々人の経験や専門分野と関わって、検討委員会内部にも学術会議会員の間にも存在する。とりわけ、 ・・・続きを読む
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筆者

井野瀬久美恵

井野瀬久美恵(いのせ・くみえ) 甲南大学文学部教授

1958年愛知県生まれ。京都大学文学部卒。京都大学大学院文学研究科博士課程修了、博士(文学)。2000年より現職、日本学術会議第23期(2014年10月〜2017年9月)副会長。専門はイギリス近現代史、大英帝国史。著書に『大英帝国という経験』(講談社)、『植民地経験のゆくえ』(人文書院)、『大英帝国はミュージック・ホールから』(朝日新聞社)、『イギリス文化史』(編著、昭和堂)など。