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投資家は研究開発ベンチャーをどう見分けているか

選ばれるスタートアップとは、「技術力」よりも「社会課題」、そして「人」だった

伊藤隆太郎 朝日新聞記者(科学医療部)

 名の通った大企業にも、閉塞感や将来への不安が漂う時代だ。「自分で会社を始めたい」という願いが、若い世代に広がっている。最近は「スタートアップ」という言葉もよく使われる。短い期間で一気に成長をねらう起業スタイルを、そう呼ぶ。若者には憧れのキーワードとして響くようだ。

 起業家向けのコンサルティングに取り組むジャパンベンチャーリサーチ(本社・渋谷区)の調べでは、2016年の未公開ベンチャーの資金調達額は2099億円に達し、調査を始めた06年以降で最大になった。資金調達を果たした企業数も979社に上り、1社平均額が大型化しているのも特徴だという。

 投資家からの支援こそ、スタートアップ実現の大きな一歩だろう。では投資家は、ベンチャーのどこを見ているのか。研究開発型の起業支援に特化した国内最大級のベンチャーキャピタルである「リアルテックファンド」の永田暁彦代表に聞いた。

リアルテックファンドとは
 ファンドを運営するのは「合同会社ユーグレナSMBC日興リバネスキャピタル」。藻の一種であるミドリムシを活用した食品や化粧品の研究・開発に取り組むユーグレナ(出雲充社長)と、科学全般に立脚した各種事業を手がけるリバネス(丸幸弘CEO)、総合証券大手のSMBC日興証券の3社が共同で設立した。出資者は日本たばこ、電通、清水建設、第一生命、ソフトバンクなど。

拡大永田暁彦さん 研究開発型の起業を支援する「リアルテックファンド」代表。バイオベンチャー企業「ユーグレナ」のCFOでもある

 ――すでに32社に出資していますね。

 我々は2014年末に創業して、翌年から投資をスタートした。2020年までに40〜50社へ出資することを目標にしているので、予定通りのペースだ。現在のファンド規模は94億円で、日本最大級の研究開発特化型ファンドになる。

 ――投資期間は10年ですが、もっと長く見守りたいケースもあるのでは?

 一般的な投資ファンドと比較すれば、10年は十分に長い。むしろ研究開発型ファンドだからこそ、10年も時間をかけられる。出資者からの大切なお金をこれだけ長期にわたって預けるのだから、厳密なルールに基づいてしっかり投資判断をしている。出資者が合意すれば延長もできるが、それでも最大13年までだ。

 我々は、医療やバイオ、機器開発のような「技術系ベンチャー」と、ゲーム制作やウェブサービスのような「IT・ネット系ベンチャー」を分けて考えている。ハード系かサービス系か、という違いにも近い。我々が投資するのは、ハード系の技術系ベンチャーだ。サービス開発が主体のIT・ネット系ベンチャーなら、投資期間はもっと短くなるだろう。また、資金をいかに短期間で最大化させられるかでファンドは評価されるから、基本的には「10年後に3社を上場させるより、5年で1社を上場させたい」という価値観もある。 

 ――すると、3年前後で芽が出ない技術はダメということですね。

 IT・ネット系のベンチャーならば、「開発を始めれば、とにかく何らかのモノはできる」という特長がある。例えばスマホゲーム開発なら、仕上がりの良し悪しはあっても、ともかく製品にはなる。しかし技術系ベンチャーはそうはいかない。製品化できるかどうかは、やってみないとわからない。二つのベンチャーの基本的な違いがここにある。

 リアルテックファンドが支援する技術系ベンチャーでは、最初の製品を登場させるまでの「大きな谷」を乗り越えられるかどうかが、最初の判断になる。たとえば新型ロケットを開発するなら、まずは「飛ぶか飛ばないか」という大きな分かれ目がある。 

研究者にありがちな失敗とは

 ――では、どうやって見分けるのですか。

 我々には三つの指標がある。重要な順に挙げると「人」「課題」「技術力」だ。意外かも知れないが、人を見分けるのがもっとも重要である。つまり経営者がどんな人物であるかを最重視している。自分をベンチャー投資家だと自己紹介すると、「さぞ技術への目利きが素晴らしいのでしょうね」などと言われるが、実は技術力への判断は一番最後だ。

 技術系ベンチャーに起きがちな失敗は、「何のためにやっているか」という原点を見失うこと。経営者は、自分自身が技術者でもあることが多く、自分の技術へのこだわりが強すぎるため、適切な方針転換がなされにくい。

 しかし考えて欲しい。本当に達成すべきは、2番目の指標でもある「課題」の解決だ。つまり「こんな社会問題を克服したい」という目標に取り組むために、そもそも起業するのではないか。そのためには、当初の技術にこだわりすぎてはダメな場合もある。だから、どこかで見切りを付ける判断ができるかどうかは、最大のポイントだ。つまり「人」が問題だ。

 ――自分の技術にこだわることは、研究者の素質であるとも感じますが……

 もちろん私も、もともとは技術系ベンチャーの一員。自分の技術で勝負をしたいし、そうできるならば幸せだ。あるいはアカデミズムの世界にいるのなら、徹底的にこだわることもよいだろう。しかし会社をつくるならば、最終的に収益を出して従業員の生活を守り、出資者に報いることが責務になる。その責務を果たせる技術が、いまの自分のものとは限らない。場合によっては、外から見つけてくる方法だってある。 ・・・続きを読む
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筆者

伊藤隆太郎

伊藤隆太郎(いとう・りゅうたろう) 朝日新聞記者(科学医療部)

1964年、北九州市生まれ。1989年、朝日新聞社に入社。筑豊支局、西部社会部、AERA編集部などを経て、2016年から科学医療部。

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