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阪大、京大は入試でどこを間違えたか

物理の本質に戻って問題を点検してみる

延與秀人 理化学研究所・仁科加速器研究センター長

 2017年の大阪大学の入試で出題ミスがあったため30名の追加合格者が2018年になって発表されるという前代未聞の事件があった。SNSに「今頃になって合格通知が来た」とつぶやく浪人生が居たりして、ネットは炎上し続けていたようだ。この事件の被害者には心から同情する。

吉田弘幸さん。早稲田大学卒、同大学院修士課程修了、慶応大学法科大学院修了。河合塾やSEGなど大学受験の予備校・学習塾の物理と数学の講師を1988年から続けている。国際物理オリンピック日本委員会委員=高橋真理子撮影

 ミスがあったのは、音波の干渉の問題だ。音波と音波が重なり合ったときどうなるかを考えさせるものである。同じような問題で、京都大学の入試問題でも設問に疑義があるという話題が立ち上がった。指摘したのは大阪大学の出題ミスを指摘した方と同じ方、吉田弘幸さんという予備校の先生で、解答不可能であると大学に質問を送ったそうである。そして京大も17名の追加合格者を出したというニュースが伝わってきた。

 この2つの問題について、大学や高校の物理の先生と思しき方々、巷の物理ファン、大学生、受験生などがSNSにつぶやきを書く。模範解答なども出てきた。高校物理の範囲で解けるはずの問題なので、解ける人は多い。ところが、回答が様々である。大学で教鞭をとる物理学者の意見と、件の予備校の物理の先生の意見も食い違うのである。

 音波は身近なもので、わかりやすいはずなのに専門家の間でも意見が異なる。だから物理は難しいとは思わないでほしい。物理は「もの(物)のどうり(道理)」を学ぶものなので、身近な現象なら、自分の感覚で感じることを数式にして教えてくれる学問のはずなのだ。本稿では、なぜこれらの問題が専門家でも間違ってしまう状況を作ったかを説明したい。筆者は原子核物理を専門とする研究者だが、中学時代からのオーディオファンで、音の鳴るものが大好き。アンプやスピーカーを作って過ごしていた。そのせいか、この問題がすごく気になるのである。

阪大の問題の本質は壁ギリギリまで近づいた音叉の音の大きさ

 さて、大阪大学の問題は本質的には以下のような状況を考える問題だ。目の前で音叉を鳴らし、そのまま固い壁に近づこう。壁ギリギリまで(壁に音叉が触れるギリギリまで)近づくと、音叉からの音は、より大きく聞こえるか、より小さく聞こえるか、はたまた同じ大きさで聞こえるか?ということを問うている。

 分からなかったら実験をしてみよう。音叉が無ければ無指向性スピーカー、それもなければ全方位に音を出しそうな機械式の目覚ましでもいい。私もやってみた。

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