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生かされるか潰されるか、宙に浮く前市長の手紙

米国防長官への要請文が、ジュゴン訴訟と辺野古新基地建設の行方を左右する

桜井国俊 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

 本年5月に米サンフランシスコの連邦地裁でジュゴン訴訟が再開される。この裁判は沖縄の自然環境の保全、そして多くの沖縄県民が反対の声を挙げている名護市辺野古の新基地建設の帰趨を大きく左右する。再開される法廷で大きな意味を持つことになると思われた本年1月31日付けの稲嶺進・名護市長(当時)のマティス米国防長官宛の要請文が、今、宙に浮いている。言うまでもなく2月4日の名護市長選において稲嶺氏が敗れ、辺野古新基地建設について態度を表明していない新市長が誕生したからである。この要請文の持つ意味について見てみることとする。

ジュゴン訴訟の経緯

拡大2018年1月31日付、稲嶺進名護市長(当時)からマティス米国防長官に宛てた要請文
 昨年9月に「ジュゴン訴訟『差し戻し』の重要性」で論じたが、あらためてジュゴン訴訟の経緯について見ておこう。

 ジュゴン訴訟は、日米の環境保護団体やジュゴン自身が原告となり、米国防総省を相手に、辺野古を埋め立てる基地建設は米国国家歴史保存法(NHPA)に違反するとしてジュゴンの保護を求め、15年前の2003年9月にサンフランシスコ連邦地裁に提訴したものである。

 2008年1月には、ジュゴンへの悪影響を回避、軽減するためNHPA第402項に基づきジュゴンへの影響について「考慮する」手続きをとるよう、国防総省に命じる判決が出たが、2012年2月には裁判を休止する決定がなされる。日本の環境アセスが継続中であったことや、民主党政権下で辺野古における新基地建設の進展が「明確というにはほど遠い状態にある」ためとの判断であった。

 その後、国防総省は2008年判決に応えて、日本の辺野古環境アセスを基にした報告書の完成を裁判所に2014年に通知した。これに対し原告団は「ジュゴン保護の考慮について原告らと協議」していないのはNHPA違反であるとして、工事の中断を追加申し立てする。こうした経緯を経て連邦地裁は2014年12月に審問を開いて双方の意見を聴取し、「今後、本件審理に入るか決定する」とした。

 そして翌2015年2月、連邦地裁は「外交問題である基地工事の中断を命じる法的権限は裁判所にはない」として原告側の申し立てを却下したのである。原告団はこれを不服として2015年4月に第9巡回控訴裁判所に控訴し、2017年3月15日に控訴審が結審した。

 2017年8月21日の控訴審判決で、第9巡回控訴裁判所は連邦地裁の判決を覆し、「原告の請求は政治的でない」「原告には訴訟を起こす資格(原告適格)がある」として審理を連邦地裁に差し戻したのである。これでジュゴン裁判はようやく実質審議に入ることとなった。

稲嶺前市長は何を訴えたか

 そこで稲嶺前市長の米国防長官宛の要請文である。前市長は1月31日の記者会見で要請の趣旨を市民・県民向けに説明しているので、それに基づいて要請の内容を見ていくことにしよう。

拡大沖縄県名護市の沖合に姿を現したジュゴン=2010年7月
 前市長がまず指摘したことは、辺野古の埋め立て工事はまだ1%以下しか進捗していないが、明らかに深刻な環境影響が観察されるということである。

 具体的には、2015年1月以降は大浦湾でジュゴンが観察されておらず、また2015年6月以降ではそれまで大浦湾を含む沖縄本島北部の沿岸部で確認されていたジュゴン個体Cが確認されていない。米国防総省は、日本政府が2012年に提出した環境アセスに基づき、2014年にジュゴン訴訟の場に「新基地建設によるジュゴンへの悪影響はない」という報告書を提出しているが、現在の辺野古・大浦湾の状況は明らかにこれとは異なるというのだ。

 その上で前市長は2つのことを要請している。第一には、 ・・・続きを読む
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筆者

桜井国俊

桜井国俊(さくらい・くにとし) 沖縄大学名誉教授、沖縄環境ネットワーク世話人

1943年生まれ。東京大学卒。工学博士。WHO、JICAなどでながらく途上国の環境問題に取り組む。20年以上にわたって、青年海外協力隊の環境隊員の育成にかかわる。2000年から沖縄暮らし。沖縄大学元学長。

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