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指導要領改訂は、世界の教育の潮流に沿うものだ

未来に向けて、高校生の数学的に考える資質・能力をいかに育むかを考えたい

西村圭一 東京学芸大学教育学部教授

 今回の学習指導要領改訂は、小学校、中学校、高等学校の全教科において、「知識及び技能」、「思考力、判断力、表現力等」、「学びに向かう力、人間性等」の3要素からなる資質・能力を相乗的に育成することを目指している。これは、世界の教育の潮流に沿うものと言えよう。教育のグローバルな潮流は、知識とコンピテンシー(能力)を相乗的に学ぶカリキュラムや授業の模索へと進んでいる。

世界的に評価される日本の算数教育

算数の問題を考える小学4年生=2016年9月、鳥取市、斉藤智子撮影
 このような相乗的な学びを実現しているのが、日本の算数教育だ。伝統的に、問題解決型の授業を実践してきており、世界的に高く評価されている。

 例えば、分数同士の割り算の指導では、教師が「ひっくり返してかける」というやり方を示し、練習させるといったような授業はしない。初めて出会う割り算の答えを、既に学習したことがらを用いて求めさせ、その多様な方法を学級全体で比較・検討し、洗練していく。このような過程を通して、未知の問題を解決する「思考力、判断力、表現力等」と、他の場面で活用可能な「質の高い」知識や技能を養っていくのである。

高校数学には多くの問題点がある

 残念ながら、このような授業は、中学、高校と学校段階が上がるにつれ少なくなっていく。とりわけ、高校においては、理解が浅いまま問題練習に進むために、学習内容の剥落(はくらく)がはやい生徒も少なくないようである。また、数学を学ぶ楽しさや実社会との関連に対して肯定的な回答をする割合は国際的にみて低く、数学本来の「学び」とは距離がある実態がうかがえる。

 日本の高校の数学教育は、他にも世界の潮流から大きく遅れていることがある。

GeoGebraの画面。

 第一に、数学の思考ツールとしてのコンピューター利用である。多くの国で、GeoGebraに代表される無料で使い勝手のよいアプリケーションが教室で使用され、深い理解、深い探究が志向され始めている。その利用を前提にしている教科書がある国もある。しかし、日本では、問題のデータベースや解説動画の利用程度にとどまっている。

 第二に、統計や応用数理の比重である。例えば、米国では1980年代に既に「数学」と「統計や応用数理」を両輪とする数学教育の方向性が示された。最近は、AI・IoTの飛躍的な発展、ビッグデータ利用可能性の進展などを背景に、データサイエンス教育が一層重視されている。現実社会の問題に数理的に対処したり、データを活用し事実や確率に基づいて判断や意思決定をしたりする上で、数学的思考と統計的思考の相補的な活用が鍵となるからだ。そのような資質・能力を、すべての生徒に養っていく必要があると考えられている。

 第三に、多様な進路への対応である。例えば、イングランドでは、CoreMathsという大学入学資格試験科目が新設された。学際的な分野が増え続ける中で、非理工系大学への進学希望者が、高等学校の早い段階で数学から離れてしまうことに対応すべく、進学後の学修の基盤となる資質・能力の育成をめざして設けられたものである。それは、データの分析や、確率や期待値を用いたリスクの分析、モデル化などからなり、教科書でも試験でもリアルな問題場面が扱われている。

 日本においても、

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