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熊本地震が超高層ビルに突きつけた課題

長周期パルス、どこまで考える?

瀬川茂子 朝日新聞編集委員

拡大熊本地震で倒壊した家屋=2016年4月18日、熊本県南阿蘇村、竹花徹朗撮影
  熊本地震から2年たった。その時、活断層の近くで観測された揺れの記録が今も注目を集めている。あまりに大きいのだ。ある建築関係者は「本当だと思いたくない」と話していた。阪神大震災以降、活断層への対策を考えてきた超高層や免震ビルの設計者にまた課題が突きつけられた。「防災にゴールはない」という言葉の通りだ。

  それは、2016年4月16日に西原村で観測された「長周期パルス」。揺れの往復にかかる時間を周期とよび、西原村で観測されたのは周期3秒で大きな振れ幅をもつパルスだ。活断層の近くだけで観測されるもので、これまで台湾の地震などで観測されてきたが、日本でこれだけ大きな長周期パルスが観測されたのは初めてだという。

超高層ビルが傾く?

  超高層や免震の建物では、カタカタした小刻みな揺れは、あまり問題にならないが、長い周期で地面が大きく動くと、高い建物の頭の部分が足元の動きについていけずに残り、建物の変形が大きくなる。工学院大の久田嘉章教授らが、西原村で観測された揺れを使って29階建ての超高層ビルがどうなるかシミュレーションしたところ、柱や梁が損傷し、揺れがおさまっても変形が残る結果が出た。変形が大きいと内壁が壊れたり、配管が損傷したり、ドアがあかなくなったりする恐れがある。建物が倒壊するかどうかはわからなかった。

  免震建物は、建物と地面の間に免震層を置き、直接地面の揺れが建物に伝わらないようにしたものだが、免震層の変形が大きくなりすぎると、建物の周囲の擁壁に衝突する恐れがある。これまでは、衝突しない前提で設計していたため、衝突すると建物にどのような被害が出るのか、よくわからない部分も多い。

大阪・上町断層で対策は進んできたが……

  長周期パルスが現実の問題となって、改めて注目されたのが上町断層帯だ。大阪府豊中市から岸和田市にいたる約58キロの断層帯で、西原村にはない超高層ビルが林立する市中心部を貫く。上町断層で長周期パルスが生じるリスクは、1995年の阪神大震災以降、指摘されてきた。

拡大上町断層が走る大阪市内には高層ビルが林立する=2012年8月、高橋正徳撮影

 建築基準法は国民の生命、健康、財産を守るために最低基準を決めたものだ。「まれな地震」では建物は損傷を受けず、「きわめてまれな地震」でもたとえ建物が損傷しても倒壊させずに命を守ることになっている。「きわめてまれな地震」の揺れの大きさについては、国交省が「告示波」と呼ばれる設計用の地震波で示している。

 ところが、大阪府などの揺れの予測で、告示波よりはるかに強い揺れが推定され、その中には長周期パルスも含まれていた。

  2009年、関西の設計者らは独自の取り組みを始めた。日本建築構造技術者協会(JSCA)関西支部のメンバーを中心に委員会(大阪府域内陸直下地震に対する建築設計用地震動および設計法に関する研究会:略して大震研)を作り、50社以上の企業の設計者が集まり、上町断層付近の設計法の基本的な考え方を作ることにした。設計用の地震の揺れを設定し、その揺れに対する建物の耐震性のレベルを決める、ということだ。

  揺れの予測は、大阪府の検討結果を利用したが、それは、さまざまな条件のもとで幅のあるものだった。各地点での揺れの予測にばらつきがあるとき、平均的な揺れを考えるのか、最大の予測まで含めるのかによって想定は全く違ってくる。設計者にとっては大問題だ。

防災にゴールはない

  大震研は、 ・・・続きを読む
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筆者

瀬川茂子

瀬川茂子(せがわ・しげこ) 朝日新聞編集委員

1991年朝日新聞社入社。大阪本社科学医療部次長、アエラ編集部副編集長などを務める。共著書に「脳はどこまでわかったか」(朝日選書)、「iPS細胞とはなにか」(講談社ブルーバックス)、「巨大地震の科学と防災」(朝日選書)など。

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