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「南北対話」「米朝会談」成功に欠かせない5視点

今からでも遅くはない、日本も積極的に貢献策を提示せよ

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

 平昌五輪を境に、急速に北朝鮮をめぐる対話の動きが広まり、今月と来月、いよいよ重要な正念場を迎える。はたして、これらの対話が、北朝鮮の非核化や朝鮮半島の平和へのブレークスルーになるのか。それとも、これまで繰り返されてきた「合意と破棄」が続くのか。3月半ば、筆者が参加して東京で開催された戸田記念国際平和研究所主催のラウンドテーブルと、ソウルで開催されたAsia Pacific Leadership Network for Nuclear Disarmament and Non-Proliferation (APLN)主催のワークショップでの議論をふまえ、注目すべき5点を整理してみた。

【1】軍事対立は何としても防げ

拡大実現すれば史上初となる米朝首脳会談。5月末までの開催が検討されている
 今回の対話が上手くいかなかった場合、米トランプ政権が軍事行動に出る「トランプ・リスク」が依然として懸念の的だ。まずは、韓国と北朝鮮で南北ホットラインの設置に合意したように、米国と北朝鮮の間にもホットラインを設置し、意図せざる軍事対立や紛争拡大を未然に防止する態勢整備に合意することが肝要だ。米国はクリントン政権の時に、真剣に軍事行動を検討していたと、当時のペリー元国防長官が朝日新聞のインタビュー(2017年11月30日)で答えている。間一髪でカーター元大統領の北朝鮮訪問が決定し、軍事行動は避けられたが、今回もし軍事行動が起きれば、もたらされる被害は当時以上に甚大なものになると推測される。

 成功に向けた具体的な方策としては、軍事部門同士の対話を進めることや、軍事演習行動の遅延・縮小など、緊張緩和につながる行動を継続して、対話の動きがどうなろうとも軍事対立を防ぐ仕組みを構築していくことが重要である。

【2】過去を正しく認識し、北朝鮮の意図を把握せよ

 何よりもまず、今回の北朝鮮の変化が、過去と同様の「時間稼ぎ」なのか、それとも「非核化に向けての本気の動き」なのか、見きわめねばならない。

 この疑問に答えるには、過去の経緯を正確に理解する必要がある。米国側から見ると、過去の合意破棄は一方的に北朝鮮が悪いように見えるが、事実は必ずしもそうではない。これには、上記のクリントン政権で国防長官を務めたペリー元長官、ならびに過去の交渉にも関与し、現在は韓国大統領外交安保特別補佐官の文正仁(ムン・ジョンイン)氏のインタビューが参考になる。

 1994年に合意された米朝枠組みには「ハードな合意」(軽水炉の建設、重油の提供等)と「ソフトな合意」(北朝鮮への経済支援、南北家族面会など)があった。ハードな合意については遅れはあったものの米国は実施していたが、ソフトな合意については米議会の反対もあり何も実施できなかったという。そして2001年にブッシュ政権が発足すると、合意の破棄を政策目標として、02年には「悪の枢軸」と呼び、実際に合意を破棄してしまった。

 この背景には、北朝鮮の秘密のウラン濃縮開発があったとされている。しかし文氏によると、当時の金大中(キム・デジュン)大統領は、まだ北朝鮮の濃縮施設は完成していないから対話で解決しようと米国に持ちかけたが、ブッシュ政権が拒否し、約束していた重油供給を停止したという。さらに、05年の6者協議で北朝鮮が核放棄を受け入れた時も、直後に米国が北朝鮮の銀行口座を凍結したという。こういった事実はあまり知られておらず、北朝鮮側にとってみれば、米国側が合意を破ったという見方になっている。当時、ブッシュ政権で国連大使として合意破棄を推進したのが、この度国家安全保障補佐官に就任したボルトン氏であり、米国の出方は確かに予断を許さない。

 文氏によると、今回の北朝鮮の対話攻勢は「米国に対する抑止力を持ったという自信」に基づく「戦略的決断」だという。一方で、経済再建を推進するためには経済制裁の解除が必要と判断したとも考えられる。制裁に屈したというわけではなさそうだが、それなりに「圧力には意味があった」と文氏は答えている。

 ソウルでの議論においても、経済制裁だけでは北朝鮮が屈する見通しは低いとの見解が確認された。一方で、北朝鮮側の「抑止力を確保した」という判断が、今回の決断につながっており、単なる時間稼ぎというより、対話に本気であると判断してよさそうだ。

【3】「段階的非核化」と地域の安全保障を

 韓国の文大統領は、北朝鮮との対話の議題として、(1)朝鮮半島の非核化、(2)平和定着、(3)南北関係の改善、の三つを明らかにしている。従来、北朝鮮は非核化については米国とのみ対話すると述べていたが、今回は初めて韓国との議題に入れてきた。

拡大南北高官協議で握手を交わす韓国と北朝鮮の代表者=2018年3月29日、韓国統一省提供
 だが、北朝鮮の非核化が一気に実現するとは考えにくい。また「非核化」の定義も明確にせねばならない。米国は常に「完全、検証可能で、非可逆的な核廃棄」が非核化の定義であり、対話の条件としてきた。しかし、北朝鮮の非核化は、最終的な目標としての「出口論」であり、到達までには時間がかかる。この認識の相違をどう解決するかが大きな課題だ。現実的には、「検証可能で、非可逆的に、段階的な核廃棄」で合意することが望ましい。 ・・・続きを読む
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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

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