喜べない「雇用増」の実体と、日銀政策委員会という「非科学」組織
2018年04月16日
安倍政権の下で始まったアベノミクスの目玉は、日銀による異次元緩和政策であった。これは、ゼロ金利の下で大量の貨幣供給を行い、人々にインフレ(物価上昇)予想を形成し、景気を刺激する政策で、リフレ政策と呼ばれる。仕組みをざっくり言えば、「お金の量を増やす」→「人々が物価上昇を予想する」→「高くなる前に欲しいモノを買おうと考える」→「消費も投資も刺激される」→「雇用が増える」ということである。
「そんな単純な仕組みなの?」と思われるかもしれないが、一応、経済学の理論での正当化も存在する。ニューケインジアンの理論やクルーグマンの理論などがそれである。
さて、このような理屈から、2013年以降5年にわたって実施された異次元金融緩和は成功だったのか、失敗だったのか。評価は真逆の二通りがある。
第一は、インフレなど起きていないので失敗
第二は、失業率が低下し、求人倍率が高くなったので成功
というものだ。個人的印象では前者が優勢に思えるが、後者を主張する人もいる。しかし、インフレなど全く起きていないので、後者を支持するなら、先ほど述べたインフレ期待による景気回復という経路は否定されなければならない。何か別の「おまじない的な仕組み」で効果が生まれたのかもしれないが、それでは科学技術的な成功とは言えず、いわゆる代替医療と同水準になってしまう。
金融緩和への国民の評価はどうだったろうか。ここに最近まとめられた内閣府のレポートがある(『経済分析』197号2018年)。経済学者と一般人へのアンケート調査のレポートだ。その結論では、「『ゼロ金利下の金融政策の困難さ』を意識していることがわかった」、となっている。
具体的には、専門家の50パーセント超、一般回答者の35パーセント程度が「景気刺激は困難」と答え、最頻のパーセンテージである。面白いのは、経済理論を理解しているはずの専門家のほうが過半数も「困難」と考えていることだ。そういう意味で、この政策は代替医療っぽい(医者は否定し、一般人が信仰しやすい)と言えるだろう。
では、「失敗」を主張する経済学者やエコノミストは、雇用の増加をどう分析しているのだろうか。
小野氏のこの指摘は、2016年までについて述べたものだ。17年以降は雇用が伸びたが、男性はほぼ元に戻っただけで、純増は女性の分とほとんど一致している。氏の指摘は今でも当てはまると言えるだろう
この現象について、小野氏はこう解釈する。すなわち、GDP(国内総生産)が増えない、ということは、仕事の総量もそれによる所得も増えないということ。その中で女性の就業者数だけが増えているということは、前と同じ量の仕事を従来の男性と新規の女性が分け合って担当するようになっている、ということだ。これは一人当たりの所得が減少することを意味する。決して、喜べる雇用増加ではないのである。小野氏は、共働き家庭が増え、深刻な保育園不足が生じていることなどを喜べない材料として指摘している。
ここで多くの人が抱くのは、「じゃあ、マクロ経済学の理論って、いったい何なんだ」という疑問だろう。
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