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世界禁煙デー、日本の最重要課題は受動喫煙防止

生ぬるい健康増進法改正案、東京都の条例案に期待

大島明 大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座環境医学教室招聘教員

5月31日は世界禁煙デー

 5月31日は、世界保健機関(WHO)が定めた「世界禁煙デー」(World No Tobacco Day)だ。1988年以降(1988年のみ4月7日に実施)毎年世界各国で記念行事が行われてきた。日本では、厚生労働省が1992年から5月31日~6月6日の1週間を「禁煙週間」と定め、国や自治体でさまざまな取り組みやイベントが実施されてきている。

2018年世界禁煙デーに向けてWHOが制作したポスター。「たばこは心臓を壊す。たばこではなく健康を選ぼう」と書かれている。

 WHOが決めた2018年の世界禁煙デーのテーマは”Tobacco and heart disease”(たばこと心疾患)である。喫煙が肺がんをはじめとする多くのがんの原因となることはよく知られているが、心疾患、脳卒中、末梢血管疾患などの心血管疾患のリスク要因でもあることを広く伝えようとするものだ。

2018年世界禁煙デーに向けて厚生労働省が制作したポスター、小さい字で目立たないが、「望まない受動喫煙をなくそう」とのキャプションが入っている。

 しかし、厚生労働省が選んだ今年のテーマは、「2020年、受動喫煙のない社会を目指して~たばこの煙から子ども達をまもろう~」である。

 実はこれは2016年からずっと変わらない。2020 年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会を前に受動喫煙防止のための法的規制の強化が日本のたばこ対策の最重要課題だからだろう。

 だが、今年のポスターの絵柄は過去2年と比べてあまりにおとなしい。受動喫煙防止の法的規制がうまく進んでいないこと示す「敗北宣言ポスター」だという気がしないでもない。

 本稿では法規制を巡る最近の動きを紹介し、筆者の考えを示すこととする。

自民党に反対され、生ぬるい改正案に

 まず、昨年の動きから。第193通常国会(会期:2017年1月20日~6月18日)に向けて、受動喫煙防止強化のための健康増進法改正厚生労働省案の基本的な考え方が2017年3月1日に発表されたが、たばこ販売・耕作者組合などから献金を受ける「たばこ族」議員の多い自民党との調整がつかず、結局、改正案の上程は見送られた。

 一方、東京都は9月8日に「東京都受動喫煙防止条例(仮称)の基本的な考え方」を公表したが、小池東京都知事は、近く提出するとされる国の法案との調整の必要があるとして、翌2018年2、3月の東京都議会への条例案の提出を見送った。

 厚労省は改正案を作り直し、第196回通常国会(2018年1月22日~6月20日)への上程に向けて自民党の厚生労働部会の了承を今年2月22日に得た。3月9日には閣議決定されている。

 新しい改正案の内容は次のようなものだ。

(1)学校、病院、児童福祉施設等、行政機関は敷地内禁煙(ただし、屋外で受動喫煙を防止するために必要な措置がとられた場所に喫煙場所を設置することができる)。
(2)上記以外の多数のものが利用する施設(事務所、飲食店、ホテル、老人福祉施設、運動施設等)については原則屋内禁煙(喫煙専用室内でのみ喫煙可)。
(3)飲食店のうち既存特定飲食提供施設(個人または中小企業=資本金または出資の総額5,000万円以下、かつ、客席面積100平方メートル以下の飲食店)は別に法律で定める日までの経過措置として標識の掲示により喫煙可。

 学校、病院、児童福祉施設等に加えて、国の官公庁を含めた行政機関が敷地内禁煙とされることは一歩前進ではある。しかし、「たばこ族」議員にも受け入れてもらうために生ぬるい規制になったことは否めない。既存特定飲食提供施設に該当するものは、東京都の調査によると過半数を超えることが示されている。過半数を超えるものを「原則屋内禁煙」の例外扱いにするのはおかしいし、また、飲食店の経営に配慮するなら、例外を設けるべきではないと考える。

 一方、東京都では、

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