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破局噴火は予測できるのか 神戸大の挑戦

7300年前に巨大噴火を起こした海底カルデラを探査する

瀬川茂子 朝日新聞記者(科学医療部)

 「破局噴火」に向かうシナリオが南九州の海底でひそかに進行しているらしい。破局噴火とは、広い地域を襲う火砕流噴火で巨大カルデラができ、日本列島の大半に火山灰が降るような現象をさす。作家の造語だが、国の機能をまひさせかねない大規模噴火をさす言葉として広まった。物騒な噂を耳にして、その現場を調べている神戸大を訪ねた。

薩摩硫黄島は、鬼界カルデラの外輪山の一部=2018年1月14日、日吉健吾撮影

 現場は鬼界カルデラと呼ばれ、大部分は海底にあり、一部、薩摩硫黄島などが海上に出ている。約7300年前、ここで巨大噴火が起こり、火砕流は海を渡って80キロ先まで到達した。南九州に上陸し、行く手にあるものすべてをなぎ倒し焼きつくし、生物は死滅した。大地震と大津波も起こり、豊かな森が戻るまでに長い時間がかかった。火山灰は遠く東北地方まで飛んだ。

 火山学者は、こんな噴火が再び起こる可能性があると考えている。問題はそれがいつか? ということだ。予測は難しい。しかし、何か手がかりはないか。神戸大グループは、大学の練習船「深江丸」に音響探査装置や海中ロボットなどを載せて、2016年から調査を始めた。

溶岩ドームの組成が示す新たな巨大噴火の準備 

 海底地形を調べた結果、溶岩ドームがあることがはっきりした。カルデラの中のドーム状の地形は、マグマが噴出せずに地面が隆起してできることもあるが、海中ロボットで撮影した写真には、水中に溶岩が噴出してできる「枕状溶岩」が見つかった。ただの隆起ではないと考えられた。7300年前の巨大噴火以降にこの溶岩ドームが形成され、ドームを作る溶岩の量は約32立方キロメートルと推定された。

海底の枕状溶岩。カルデラを形成した破局噴火後に噴出した=神戸大提供

 さらに、鈴木桂子教授によると、溶岩ドームの岩石の化学組成は、薩摩硫黄島の岩石と似ているが、7300年前の巨大火砕流とは違うことが明らかになった。これがどういう意味をもつのか。

 世界の巨大カルデラの中には、カルデラ噴火後、しばらくたってから再噴火を起こした例が知られている。約76万年前にカルデラを作る巨大噴火を起こした米カリフォルニア州のロングバレーでは、その約10万年後に100立方キロメートルの溶岩を出したという。この溶岩はカルデラ噴火の噴出物と似ている化学組成で、巨大噴火を起こしたマグマの「残りかす」のようなものと考えられた。巽好幸教授によると、「巨大噴火を起こしたマグマの残りかすが出続けているだけなので、しばらく巨大噴火は起こらないという安心材料になった」。

 しかし、鬼界カルデラはそうではないと

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