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実は数学に向いている女性の自由な発想力

ラテン系文化には数学好き女性を「変わっている」と指さす偏見なし

中島さち子 音楽家・東京大学数理科学研究科特任研究員・(株) steAm 代表

 

マリアム・ミルザハニ(1977-2017)。スタンフォード大学数学科のホームページに教授として今も掲載されている
 2014年、数学界のノーベル賞といわれるフィールズ賞が、イラン人の女性数学者マリアム・ミルザハニに授与された。40歳未満の優れた数学者に与えられるフィールズ賞は4年ごとに総計56名に与えられてきたが、彼女は最初の女性受賞者となった。極めて残念なことに、2017年に癌により40歳という若さで亡くなり、世界に衝撃を与えた。しかし、彼女の業績や生き方は、今後の数学者や女性にとって大きな光になり続けるだろう。

 ミルザハニは1994年、95年に国際数学オリンピックに参加した。私は日本初の女性選手として1996年と97年に参加したが、数学五輪の女性比率は低い。

 「10%の壁」という言葉があるように、概ね10%未満となっている。「チーム6名全員が男性」という国も多く、日本も例外ではない。1990年より29回参加したうち26回は男性のみのチームで、女性選手は私を含めてまだ2名だけだ。日本は参加した大会の89%で男性のみチームを送ったことになる。国ごとに男性のみチームを送った大会の割合を調べると、50%を超える国が大半だ。

 なぜ数学にはこれほど男女差が出やすいのだろうか。私は音楽・数学・教育の3つの世界で現在活動しており、数学の魅力を伝えるイベントにも積極的にかかわっている。そうした活動を通じて感じたことを書いてみたい。

数学者の女性比率は国により大違い

 数学と聞いて苦手意識を持つ女性は、残念ながら多い印象だ。ところが、社会人相手に数学イベントを女性が開くと、昔数学は大の苦手だったという女性たちがイキイキと色々な発見やその感動を語り始め、「私は実は数学に向いているのでは!?」と言い出す方も多い。ところが、そうした場に男性が入ると、途端に男性にメインの発言の機会を渡し無口になってしまったりする。

 「女性は数学に向いていない」ことを裏付けるような数字やレポートは時々現れる。日本では公的なデータはないが、確かに数学分野における女性研究者は極めて少ない(一説では数学分野の女性比率は博士号で約6%、講師以上の教員で約3%、日本数学会会員で約7%)。

 一方、“Women in Mathematics:Change, Inertia, Stratification, Segregation ”(Cathy Kessel)によれば、数学博士号を持つ方の女性比率は英国や米国は約30%、ドイツやフランスは約25%、リトアニアやポルトガルはなんと約70%、トルコは約50%である。PhD・講師・准教授・教授となるにつれ女性比率は概して下がっていくが、それでも例えば講師レベルでは、英国や米国で20-30%、イタリアやポルトガルで50%が女性だ。日本よりはるかに多い。

 ラテン系文化では「女性が数学研究とは変わっている」という偏見は全然ないとも聞く。

Women in Mathematics:Change, Inertia, Stratification, Segregationから
Women in Mathematics:Change, Inertia, Stratification, Segregationから

 データ数や社会的状況等により別角度の議論もあり得るため注意する必要があるが、女性比率に文化や国の施策等も関係していることは間違いない。

女子は真面目で失敗を恐れすぎる?

 経済協力開発機構(OECD)が2015年に発表したレポート“The ABC of Gender Equality in Education”も興味深い。ここでは、「数学に対する自信を聞いたところ、女子の方が良い成績でも『自信がない』と答える割合が高い」という結果を紹介している。つまり、女子は男子に比べて失敗を恐れ、真面目であるがゆえに数学や科学に必要な試行錯誤力や失敗への耐性がうまく育っていないのではないか。数学における性差は素質の差でなく、学び方の姿勢によるものではないか。

 私は

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