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研究者たちの「#MeToo」

科学を蝕むハラスメントは、研究不正に等しい

粥川準二 サイエンスライター

 ハラスメント(嫌がらせ)、とりわけセクシャルハラスメントが告発され続けている。米国の映画プロデューサーによる女優たちへの性的暴行の発覚から始まり、ソーシャルメディア上では「#MeToo」というハッシュタグで議論されているこの問題は日本にも波及している。すでに官界やマスコミ、広告業界などで起きたことが、被害者たちが声をあげることによって炙り出されている。

 しかしながら筆者が見る限り、欧米では議論が始まっているのに、日本では盛り上がっているようには見えない業界がある。

 それは学術界である。アカデミズムにセクハラなどのハラスメントは存在しないのだろうか? もちろん存在する。以下、主に自然科学分野の調査や取り組みを紹介するが、問題自体はもちろん人文科学や社会科学にもあてはまるはずである。

英国学生の4割がセクハラを経験

 今年5月9日、ウィスコンシン大学の地球科学者エリカ・マリン・スピオッタは、『ネイチャー』への寄稿で、ハラスメントを「科学的不正行為(scientific misconduct)」としてカウントせよ、と主張した。その主張には無視できない根拠がある。

 たとえば最近公表されたものでは、英国では、「英国立学生連合」という団体などが2017年11月、学生と元学生を対象に「性的な不正行為(sexual misconduct)」についてアンケート調査を行い、今年4月に発表した。回答者1839人のうち41パーセントの学生は教職員(staff)から「性的な不正行為」を受けたことがある、と回答した。この調査では、「性的な不正行為」を、「高等教育において教職員と学生との間で権力が不均衡であること」を原因とする「性的かつ搾取的な行動の連続体」と定義づけている。日本語でいえば「セクハラ」であろう。

 現在も学生である回答者1535人のうち約12パーセントは、「不快になる」やり方で教職員からタッチされたことがある、と答えている。性別で分けると、女性は16パーセント、男性は7パーセント。現役学生9人と元学生6人は教職員からの性的暴行やレイプを経験したと答えている。

 そうした経験のために、講義に出席するのをやめたなど行動の変更を余儀なくされた学生も8パーセントいて、女性は男性の3倍多かった。学部生よりも大学院生のほうがこうした経験をする可能性が高いこともわかった。

 興味深いのは、同性愛者などいわゆる性的マイノリティーの学生たちは、異性愛者よりもそのような経験をしたと答える率が高いことである。さらに性的マイノリティーのなかでも女性は男性よりも多くの学生がそのように答えている。このような質問項目を設けるという発想自体が、日本ではまだあまりないだろう。

 また加害者の「大部分」は大学職員ではなく、研究者(教員)であることもわかった。そうした加害者の76パーセントは男性である(17パーセントが女性、残りは「答えたくない」など)。

 そしてこのような経験をしても、そのことを自分が属する大学に報告した学生は、10人に1人以下であることもわかった。『ネイチャー』の記事では、このデータは現行のハラスメント対策が失敗していることを意味する、とこの調査をまとめた社会学者が指摘している。

「権力の不均衡」は加害者に有利に働く

 こうした調査はこれが初めてではない。2017年には、オーストラリアで行われた調査で、回答者の21パーセントがセクハラを経験していることが明らかになった。米国での2015年の調査でも、48パーセントの学生がセクハラを経験している、と回答している。

拡大日本でも抗議行動はあるが…=2018年4月、東京・永田町
 これら英語圏3カ国の調査では、男性よりは女性が、異性愛者よりも同性愛者など性的マイノリティーが、学部生よりも大学院生がセクハラを経験している率が高い、という傾向が共通して浮かび上がっている。 ・・・続きを読む
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筆者

粥川準二

粥川準二(かゆかわ・じゅんじ) サイエンスライター

1969年生まれ、愛知県出身。国士舘大学、明治学院大学、日本大学非常勤講師。「ジャーナリスト」や「社会学者」と呼ばれることも。著書『バイオ化する社会』(青土社)など。共訳書『逆襲するテクノロジー』(エドワード・テナー著、山口剛ほか訳、早川書房)など。監修書『曝された生 チェルノブイリ後の生物学的市民』(アドリアナ・ペトリーナ著、森本麻衣子ほか訳、人文書院)。

 

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