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トランプをその気にさせるには、いや環境の話です

米国の地方や政権外には厚い人材資源と踏み込んだアイデアがある

小林光 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

 米国では、授業の責任を果たす傍ら、いくつかの地方都市を巡った。トランプ政権の逆風下でもしたたかに続けられている、創意工夫ある環境取り組みを見て回ったのである。そうした地方訪問の最後がコロラド州の州都デンバーと、その郊外衛星都市のボールダーであった。

環境の聖都ボールダー

 コロラド州法の「きれいな大気ときれいな職業法」については、前回の拙稿で紹介した。

 同州や州都デンバー、そして、その周辺での環境取り組みは州法にとどまらず、さらに広範多岐にわたっていて、アメリカの環境の聖都の一つとしてパフォーマンスに結びついている。

 今日、デンバー都市圏は300万人を擁し、ハイテク産業や研究所の集積が進んでいる。それらの中には、連邦立の再生可能エネルギー研究所もある。衛星都市の中でも大きなボールダーは、デンバーの北約50キロ、ロッキー大山脈東麓の前衛山地にかかる所にあって、遠くには雪をいただいた主峰群も望める風光明媚(めいび)な土地である。標高は高いが、一年のうち300日は晴れ、と言われるほど天候に恵まれ、冬の寒さは過酷ではない。

 当地への西欧入植者の到着は、ようやく19世紀半ばであって、他都市に遅れて大都市には成長したものの、重工業などは立地しなかった。自然資源を生かすことが生業となり、それが自然保護の意識を高め、今日の環境都市としての取り組みにつながった。高い自然保護意識を背景に、冬季オリンピックを返上した歴史もある。こうした説明をしてくれたのは、デンバー市の持続可能性戦略担当官のリュセロ女史である。

 同市が近年、力を入れているのが、LRT(ライトレール・トランジット)やBRT(バス・ラピッド・トランジット)などの公営公共交通。LRTは近郊とデンバーを結ぶだけでなく、都心まで乗り入れ、そこでは路面電車のように普通の街路を走っている。LRTやバスのお陰で、同市は、アメリカでは珍しい、公共交通で移動のできる都市になっている。そして、さらに、再生可能エネルギーへのシフト、既存建築物の省エネ改修などが、近年の重点政策である。

デンバーの市街地と空港を結ぶLRT拡大デンバーの市街地と空港を結ぶLRT

 デンバー市役所を訪れた翌日、ロッキーマウンテン研究所を訪問した。オバマ政権下のホワイトハウス(大統領府)の上級部長として、パリ協定に関する外交交渉を指揮したボドナーさんと面談するためだ。ロッキーマウンテン研は、再生可能エネルギー利用の実践で著名なエイモリー・ロビンス氏が、1982年に始めた老舗の環境研究機関だ。

 論者はボドナーさんに、並み居る有名な環境関係の団体の中で、なぜ、ここで働くことを選んだのか、と聞いた。他の団体が政策アドボカシーに偏っているのに比べ、あくまで実践的、経済的に実行可能な取り組みの開発に専念している。そこを高く評価している、との返事であった。そういう実際性、実学がこの研究所の持ち味なのである。

 研究所の発祥の地は、同じコロラド州のバサルト(スノウマス)で、ここにロビンス氏の自宅や自社ビルの研究所などもある。だが、規模的に見ると新築後まだ満1年にも満たない、ボールダーの研究棟が事実上の本拠地のようだ。ロッキーマウンテン研の狙いや持ち味を生かし、これらの建物はそれぞれに高い環境性能を誇っている。ボールダーの研究棟は、コロラドで最初のネット・ゼロエミッション・ビルになったのだそうだ。

 作り方も、商業的に実証され普及した技術だけを使って比較的に安く仕上げている。このため、コストアップは、通常ビルに比べて20%内にとどまるという。しかも、大家がコストアップを負担して、賃料にはほとんど跳ね返らせていない。屋上にも行かせてもらったが、日当たりがよくて太陽光パネルが並び、遠くには、ロッキーの雪山も望める建物になっていた。

トランプの米国をその気にさせる

 ボドナーさんとの面談のテーマは、アメリカがどうしたら地球温暖化対策にまた熱心になれるか。その方策を議論することであった。

 1.アメリカの真の努力についての透明な検証

 ボドナーさんの、基礎となる提案は、まずは穏当なものであった。すなわち、トランプ政権の努力振りを客観的にチェックし、明らかに偽りがあれば国際的にオープンにする、という、いわば当たり前のものである。

ロッキーマンテン研究所のボドナーさん。ボールダー研究棟の東壁面は太陽光パネルに覆い尽くされている。拡大ロッキーマンテン研究所のボドナーさん。ボールダー研究棟の東壁面は太陽光パネルに覆い尽くされている。

 パリ協定自体は、国内の温室効果ガス削減対策の程度に対し、直接の法的拘束力を発揮するものでない。トランプ大統領は、いかなる強度の国内対策でもなし得るのであり、そして、何でもできる。ボドナーさんとしては、パリ協定から抜けるのではなく、オバマ前大統領の出したINDC(各国がそれぞれに定める排出目標)を、下方修正して再提出すること(パリ協定はそれを望んでいないが禁じてはいない)を期待していた、と述べた。だが、トランプ大統領それもしなかったので残念だ、と続けた。 ・・・続きを読む
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筆者

小林光

小林光(こばやし・ひかる) 慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)

慶応義塾大学特任教授(環境経済政策)。工学博士。1949年生まれ、慶応義塾大学経済学部卒業。環境庁(省)では、環境と経済、地球温暖化などの課題を幅広く担当。1997年の京都会議(COP3)の日本誘致のほか、温暖化の国際交渉、環境税の創設などを進めた。環境事務次官(2009~11年)時代には水俣病患者団体との和解に力を注ぐ。自然エネルギーをふんだんに利用したエコハウスを自宅にしていることで有名。趣味は蝶の観察。

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