子どもの貧困と名護市の再編交付金予算について思うこと
2018年07月30日
「子どもの貧困問題の解消なくして、沖縄の将来の希望はない」
これは『沖縄子どもの貧困白書』(沖縄県子ども総合研究所編、かもがわ出版、2017年10月31日発行、税抜き2700円)に寄せられた翁長雄志・沖縄県知事の巻頭メッセージである。
白書によれば、沖縄の子どもの貧困率は29.9%で全国の13.9%を大きく上回っている。全国初の子どもの貧困独自調査を沖縄県が実施したこと、そしてこのような白書が出されていること自体が、沖縄における子どもの貧困問題の深刻さを物語っている。
そうしたなか、去る7月13日、沖縄の米軍普天間基地の移設先となっている名護市の議会は、在日米軍の再編に伴う交付金を財源に充てるなどした補正予算案を、議会の多数を占める野党が退席する中、与党の全会一致で可決した。補正予算案の目玉は、学校給食費や保育料の無料化である。
米軍再編交付金などについて論じている川瀬光義氏の近著『基地と財政』(自治体研究社2018年7月10日発行、税抜き1600円)の副題は、〈沖縄に基地を押しつける「醜い」財政政策〉であるが、まさにこの「醜い」財政政策が、沖縄の最大の弱点である貧困問題を突いてきたといえる。近刊の2書に沖縄の課題を見ていく。
沖縄戦とその後の米軍占領という歴史的要因が、社会的・経済的要因の不安定さを招いた結果、沖縄では全国一低い所得、非正規雇用率の増加、高い完全失業率、都市部での核家族化の進行、離婚率の高さ、ひとり親世帯の増加が見られる。
2014年の沖縄県の合計特殊出生率は1.86(全国1.42)で全国1位であるが、10代の若年出産が多いことが沖縄県の特徴で、母親自身が未成年のため、基本的生活習慣や家庭生活を営むために必要な技術の不足、妊娠・出産にともなう学業の中断や中途退学などが問題となる。
若い家族の不安定さと乳幼児の貧困、その結果生ずる乳幼児のネグレクト(養育の怠慢・拒否)が多いことが沖縄の特色である。こうした中、沖縄では、貧困世帯のセーフティーネットとして保育の重要性がとりわけ高い。
その象徴的事例が普天間飛行場の名護市辺野古に新基地を建設する政策で、日本政府は今後も米軍基地を維持するために沖縄の人々の怒りをなだめ沈静化するとともに、基地建設について「合意」を獲得するという新たな課題に直面することとなった。
こうした課題に直面した日本政府は、1990年代後半から新たな財政措置を講じてきた。第一には1997年度から実施された沖縄米軍基地所在市町村活性化特別事業(総事業費約1000億円、38事業47事案)であり、第二には名護市をはじめとする沖縄本島北部の1市2町9村を対象に2000年度から10年間、毎年100億円、計1000億円の予算措置が講じられた北部振興事業である。
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