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朝鮮半島の非核化:新たな検証制度が必要

現実的な核兵器廃止プロセスは、どのように進められるだろうか

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

 南北朝鮮による「板門店宣言」、そして米朝首脳共同声明には、「朝鮮半島の非核化」が明記され、歴史的な会談となった。しかし、明記されていなかった重要なポイントが、非核化の検証(verification)である。非核化のプロセスにおいて、検証が可能でないと、すべてのプロセスの信頼性が失われてしまいかねない。

 しかし、原子力平和利用の検証制度(保障措置)とは異なり、核兵器を保有している国が非核化(核軍縮)するプロセスの「検証」は、未だに国際的にも法的拘束力をもったものが存在していない。したがって、朝鮮半島の「非核化」を検証するためには、新たな制度を構築していく必要がある。

核兵器禁止条約でも詳細は未定

 「信ぜよ、されど確認せよ(trust, but verify)」は、もともとロシアのことわざであったが、INF(中距離核戦力)全廃条約調印式の時に、レーガン米大統領が引用して有名になった。それまで米ロの核軍縮・軍備管理の検証は拘束力をもったものではなく、主に相互行動を監視する「国家検証技術手段(NTM)」と呼ばれる、各国の監視活動で検証するしかなかった。INF全廃条約 では、相手国に情報を開示することを義務付け、さらには「現地での検証査察(onsite inspection)」を初めて認めた。この経験をもとに、START(戦略核兵器削減条約)の時に、相互検証措置を導入することとなった。しかし、これらはあくまでも米ロ二国間の検証措置であり、国際的には第三者が入った検証にはなっていない。

拡大核兵器禁止条約の採択され、わき上がる国連本部の議場=2017年7月7日、ニューヨーク、松尾一郎撮影
 では2017年7月に成立した核兵器禁止条約では、検証をどのように規定しているのだろうか。核軍縮の検証は第4条に規定されており、採択の時点で核兵器を保有している国に対し、条約の発効までに核兵器及び関連施設等を廃棄すること、発効後にも核兵器を保有する国に対しては第1回締約国会合で設定される期限までに廃棄を完了することを求めている。この廃棄の検証については、締約国によって指定される「権威ある国際機関(competent international authority)」と協力することのみが規定されているが、詳細については今後の交渉によると考えられる。

 また、これまで非核兵器地帯の検証は、非核保有国の軍事転用だけを対象にしていたので、今回のように、核保有国(北朝鮮)が非核化を進めるプロセスを検証したことは一度もない

核兵器を廃絶した南アフリカ

 核兵器をいったん保有した国が、そのすべてを放棄し、核兵器が存在しないことを検証したケースとして、参考になるのが南アフリカ共和国の例である。

 南アフリカは1970〜80年代に独自の核兵器開発を行い、最終的に計6発の核兵器を製造したが、1991年7月上旬に核兵器の解体作業を終えると、同年7月10日にNPTに加入し、同9月16日にはIAEAとの保障措置協定が発効した。しかし、南アフリカ共和国が申告した核物質以外にも、核物質や核兵器を秘密裡に保有している可能性がないことを検証するのは、決して容易ではなかった。IAEAは、核兵器の専門家をチームに加える形で、過去の核兵器開発に関する査察・検証を行った。この過程では、核開発に携わった技術者等へのインタビューも実施された。このケースが北朝鮮のケースにどのように役立つか、今後慎重に検討する必要がある。

段階的、多層的な制度化が必要

 すでに、米国が当初望んでいたような短期間での非核化は現実的ではないとの認識が米政権内にも広がっている。では現実的な非核化プロセスは、どのように進められるのであろうか。

拡大板門店宣言を発表する北朝鮮の金正恩委員長(左)と韓国の文在寅大統領=2018年4月27日、韓国共同写真記者団撮影
 第一ステップは、すべての核物質・核兵器・核関連施設の「申告」から始まる。この段階で、過去の核物質や核兵器などに関わる生産過程の情報も提出される必要がある。「申告」された核物質の量を検証するためには、過去の核関連施設の稼働データなどが不可欠である。また、核物質が貯蔵されている施設はもちろんのこと、関連施設へのアクセスも認められる必要がある。こういった査察活動は国際原子力機関(IAEA)が中心となって行うことになるだろう。核実験施設などの査察は包括的核実験禁止条約準備機構(CTBTO)が中心になって行うことが考えられる。これでも、秘密の核施設や隠匿した核物質を100%発見することは難しい。しかし、まずはこの「申告」の信頼性を確保することから始めるしかない。

 第二段階は、核兵器の解体、核物質の管理・貯蔵、核関連施設の停止と無能化、というプロセスである。この段階では、核兵器に関わる機微な情報に触れる可能性もあるので、IAEAやCTBTOだけでは査察できないと考えられる。前述した「三者間イニシャティブ」の経験や、2014年に米国が立ち上げ、非核保有国なども含めた27か国が協力する「核軍縮の検証に関する国際パートナーシップ(IPNDV)」における検討も参考になるが、現実的には核保有国も含めた特別の査察チームを作る必要がある。解体核物質の管理・貯蔵や核関連施設の停止と無能化を進める間も、IAEAの保障措置にならった監視が必要であり、再処理施設や濃縮施設の査察については、日本のノウハウも活用することができる。

 第三段階は、 ・・・続きを読む
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筆者

鈴木達治郎

鈴木達治郎(すずき・たつじろう) 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授

長崎大学核兵器廃絶研究センター(RECNA)センター長・教授。1951年生まれ。75年東京大学工学部原子力工学科卒。78年マサチューセッツ工科大学プログラム修士修了。工学博士(東京大学)。マサチューセッツ工科大エネルギー環境政策研究センター、同国際問題研究センター、電力中央研究所研究参事、東京大学公共政策大学院客員教授などを経て、2010年1月より2014年3月まで内閣府原子力委員会委員長代理を務め、2014年4月より現職。またパグウォッシュ会議評議員を2007~09年に続き、2014年4月より再び務めている。

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