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農業界はTPPに積極対応を

山下一仁

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 アメリカやオーストラリアなどAPEC地域の9カ国が交渉を進める「環太平洋パートナーシップ協定(TPP)」に対し、11月中旬に横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で参加を表明するかが、政府部内で大きな争点となっている。菅直人首相も参加に意欲を示しているが、農業関係者は「コメなどの重要品目を関税撤廃の例外とできるFTA(二国間の自由貿易協定)はまだしも、例外を認めないTPPは日本農業を壊滅させる」と反発を強めており、農林水産省はTPPに参加すると8兆5千億円の農業生産額が4兆1千億円も減少し、食料自給率は14%に低下するという試算を公表した。JA農協の全国組織、全国農業協同組合中央会は19日、東京都内で開いた集会で「TPP交渉への参加に断固反対する」特別決議を採択した。

 農業関係者が反対する現行のシンガポールなど4カ国が参加しているTPPは例外を一切認めないものであるが、これにアメリカやオーストラリアなど5カ国が加わり、新たな協定作りが進められており、新しいTPPでは例外を認めないと決まっているわけではない。オバマ政権に近い私の情報筋によると、アメリカがTPPに参加を表明したのには、オーストラリアなどTPP交渉参加国のなかに製造業に競争力を持つ国がなかったため、労働組合を基盤とするオバマ政権が、アメリカ農業界のことを考慮しないで簡単に決断してしまったという事情がある。しかし、米豪自由貿易協定でアメリカは砂糖を完全な例外扱いとしており、TPP交渉に入ると砂糖だけではなく、酪農品、牛肉などアメリカ農業で競争力のない産品の扱いが政治問題化すると思われる。

 農業問題は我が国が貿易自由化を推進する際に常に障害となる。オーストラリアとの自由貿易協定の交渉は2007年4月に始まってから3年以上も経ったものの、農業問題のために、いまだに合意していない。このような状況が生じるのは我が国の特異な農業保護のやり方にある。

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