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日銀総裁に外国人という選択

小原篤次 大学教員(国際経済、経済政策、金融)

 次の日本銀行総裁が誰になるのかは、金融市場だけではなく、一般社会の関心も高い。お茶の間で、日銀や金融政策への関心の高まりはアベノミクスのおかげである。民主党は日銀総裁・副総裁の後任人事で国会同意人事の判断基準をまとめている。報道によると、

(1)金融・財政・経済について、金融市場への洞察に裏打ちされた卓越した識見

(2)市場との十分なコミュニケーション能力や語学力

(3)組織管理能力、市場の急変に対応できる危機管理能力

(4)国会・政府への説明能力

(5)政府と緊密に連携しつつ、金融行政の独立性を堅持する能力、胆力を有すること

(6)金融行政を巡る課題にバランスよく対応できる能力

──の6点である。

http://www.asahi.com/business/reuters/RTR201302050169.html

 みんなの党の渡辺喜美代表へのロイターインタビューでは、武藤敏郎・元財務次官は「天下り人事だ」と、同意できない。アジア開発銀行(ADB)の黒田東彦総裁(元財務官)についても、「同ポストを他国に渡してまで行う人事ではない」と否定的である。

 日銀総裁の資質については、マクロ経済の博士号を持つ学識経験者、英語が堪能であること、危機管理能力などを挙げた。マーケットを熟知していることも要件としている。

いかにして語学力を評価するのだろうか

 安倍晋三首相との会談では候補として、浜田宏一・米エール大名誉教授、岩田規久男・学習院大学教授、竹中平蔵・元経済財政政策担当大臣、高橋洋一・嘉悦大学教授、中原伸之・元日銀審議委員の名前を挙げたという。ただし浜田氏、中原氏は高齢で海外出張も多いポストは体力的な課題がある。

http://www.asahi.com/business/reuters/RTR201301230113.html

 さて、民主党があげた(2)のコミュニケーション力は確かに重要である。日本語で市場、政府、国会、国民へのコミュニケーション力が問われる。両党とも語学能力を求めている。しかし、いかにして国会という日本語ムラの委員会で評価するかに大いに疑問がある。留学や国際機関経験で語学能力十分と判断するのだろうか。

 (1)の表現には、財政をわざわざ含める必要は無い。財政も含めた経済全般の識見は必須である。経済全般の識見を欠けば、金融市場や国民へのコミュニケーションは成立しない。財政を監視するのは、日本銀行総裁よりむしろ国会議員の役割である。

 (3)組織管理能力や危機管理能力は、日銀の長としての要件である。この要件は当たり前そうで、人材の流動性が乏しい日本社会では人選を難しくする。大学教員やエコノミストが、一定規模の組織で日常的に難しい問題を決断するような組織を経験することがまれである。大学の学部長やシンクタンクの役員や管理職と、中央銀行の総裁は異なるマネジメントだろう。

 (4)としては、「財務省次官経験者を除く」の項目を含めるとよい。人材の流動性が少ないことから、あらゆる財務省経験者を排除すると、候補者がかなり限られてしまう。ただ財務省にいると、巨額の国債発行、つまり財政赤字を抱えるだけに、どうしても低金利が好ましいとする志向になりがちだ。同時に財務省出身者は概ね日銀出身者より政治に関する嗅覚があり、機動的に変化できるという素養は中央銀行総裁に適任なのかもしれない。しかしやはり財務省がデフレに少なからぬところで関わってきた可能性も考えると、その責任も負うとすれば、事務次官経験者を除くとすべきである。

 (1)から(4)までを条件とすると、

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