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経団連の本質はロビイスト、その歴史的役割は終っている

吉松崇 経済金融アナリスト

 経団連の地盤沈下が喧伝されて久しい。そんな中、経団連の次期会長に東レ会長の榊原定征氏の就任が決まった。今回の人事は衆目の一致する本命候補(日立会長の川村隆氏であったといわれる)に断られ、水面下では随分と難航したと報道されている。

 経団連会長といえば、嘗ては「財界の総理」ともよばれ、日本を代表する実業界の顔であった。功成り名遂げた大企業の経営者にとっての権威の象徴である。このポストを断るというのは、常識では考え難いことだった。これも地盤沈下のせいなのか? 経団連会長は、最早、魅力のないポストなのか?

経団連の本質はロビイストである

 経団連の地盤沈下を象徴するものとして、一昨年の選挙の折に、安倍現首相の『異次元の金融緩和』という選挙公約を米倉会長が「無鉄砲である!」と批判して以来の、政権と経団連との疎遠さが指摘される。もちろん、このような人間関係のこじれも影響力低下の一因かもしれないが、それが大きな理由ではないだろう。

 経団連は、2010年以降、会員企業による政治献金の斡旋を止めている。経団連とは、本質的には会員企業の共通の利益を図る目的で政治に働き掛けるロビイストである。そのロビイストが政治献金の斡旋を止めたのだから、影響力が低下するのは当然である。昔はカネを出していたので口が出せた、という話である。

 それでは、経団連はその影響力を高めるために、政治献金の斡旋を復活するのだろうか? 私は、それはかなり難しいと思う。経団連の会員企業は約1,300社の日本を代表する企業群である。これら会員企業の「共通の利益」を特定することが、今となっては難しいからだ。

 かつての冷戦の時代、日本政治のいわゆる「55年体制」のもとでは、経団連の会員企業に共通の利益があった。企業にとって最も重要なのは、企業活動の自由を確保することだ。冷戦の時代とは、企業にとって社会主義経済体制が現実的な脅威であった時代だ。だから経団連の会員企業には「自由な市場経済を守る」という共通の利益があり、その為に政治資金を拠出することをいとわなかった。そもそも1955年の社会党の左右統一に危機感を抱いて、保守合同による自由民主党の成立を演出したのは財界である。

会員企業に共通する利益の消失

 しかし、冷戦が終わり、社会主義経済体制の脅威がなくなると、このような「共通の利益」を見出すことは難しくなる。1993年に経団連は政治資金の斡旋を取りやめる。色々な理由が取り沙汰されているが、つまるところ、たとえ政権交代が起きたとしても、それが企業活動への脅威とはならないことがはっきりしてきたからだろう。また、政権交代を視野に入れると、

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