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米大富豪が目論む「IT創薬」独占

国際研究者チームの反撃なるか

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 スーパーコンピューターを駆使して、がんや生活習慣病の薬を作り出す「IT創薬」をめぐり、米国の大富豪連合と、それに対抗する国際研究者チームの水面下の攻防が熾烈になっている。

大富豪のデビッド・ショー氏(米FORBES誌のHPより)

 その大富豪とは、米国で10指に入るヘッジファンド経営者でコンピューター設計者のデビッド・ショー氏と、彼の計画を支援する世界一の大金持ちビル・ゲイツ氏である。

 話は5年前にさかのぼる。米科学誌「サイエンス」に、世界の生物化学者たちを驚嘆させるコンピューターシミュレーションの映像が紹介された。超ミクロの世界でうごめくタンパク質の分子レベルの振る舞いが、まるで現実のようにパソコン上で見えるのである。

 このシミュレーションを実現したのは、デビッド・ショー氏が独自に設計開発した創薬専用のスーパーコンピューター「ANTON(アントン)」だ。その専用のCPU(中央演算装置)は、汎用CPUの150倍の計算速度を誇っている。

 この出来事はIT創薬に道を開く「分子動力学」の幕開けとなり、「ANTONショック」と呼ばれた。

 「IT創薬」は、がんなどの病気の原因になる遺伝子やたんぱく質に効きそうな化学物質をスパコンでシミュレーションして設計する。複雑で膨大な計算が必要になるので、計算速度が速いほど有利になる。

 ふつう新薬を開発するには、

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