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反安保の「市街戦」が始まっている

軍国主義化、専制主義化の流れのなか、残された時間は

香山リカ 精神科医、立教大学現代心理学部教授

 衆院で強行採決された安保関連法案は、審議の場を参院に移した。共産党の小池晃氏が委員会に提出した防衛省の内部資料により、同省が新たな法制の成立を前提に南スーダンでの「駆け付け警護」の検討を始めていたことが露呈するなど、衆参両院の長時間の審議は政府の仕組んだ“壮大な芝居”にしかすぎないのは火を見るより明らかだ。質問に答える総理や閣僚も、「どんなに野党に追及されてもここをしのげば法案は成立するのだから」と時間かせぎをしているだけなのだろう。

 もちろん、国民は黙っているだけではない。「安全保障関連法案に反対する学者の会」やSLIEADsを中心とした学生たちが声を上げ続け、それに弁護士の強制加入団体である日弁連(日本弁護士連合会)も加わった。

 8月26日、日弁連主催の大規模な「立憲主義を守り抜く大集会&パレード」に先立ち、「学者の会」と計300名で行った共同記者会見の場に私も参加した。

 ハイライトは法政大学の山口二郎氏や上智大学の中野晃一氏が居並ぶ報道陣に「みな立ち上がった。『全報道』はどこにいるのか」「次は君たちの番だ。報道の自由も奪われようとしている」と呼びかけたとき、そして産経新聞記者の「賛否両論のわかれる政治問題について特定の政治意見を述べることに、強制加入団体である日弁連が関わるのはいかがなものか」との質問に、日弁連の村越進現会長が毅然として答えたときだ。

 村越会長は短く、強くこう言った。

 「何度も申し上げているように政治的活動として行っているのではない。人権擁護を使命とする法律家として行っている。」

 現在のところこのように目につく動きをしているのは、「学者」「弁護士」それに「医療関係者」や「映画人」などいわゆる専門職や知的エリートたちが中心といえる。もちろん、「学生」「ママ」「60代以上」など職業にはこだわらずグループを作り反対している人たちもいるが、それでも演説を聴いているとよく勉強しており十分すぎるほど知的だ。

 もちろん、その「知性化された反安保」をいささかも批判するつもりはないのだが、ふと森本あんり氏の『反知性主義―アメリカの生んだ「熱病」の正体』(新潮選書、2015)で書かれた18世紀の「反知性主義の決めぜりふ」を思い出すのである。

 「あなたがたには学問はあるかもしれないが、信仰は教育のあるなしに左右されない。まさにあなたがたのような人こそ、イエスが批判した『学者パリサイ人のたぐい』ではないか。」

 森本氏は続けて言う。

 「キリスト教に限らず、およそ宗教には『人工的に築き上げられた高慢な知性』よりも『素朴で謙遜な無知』の方が尊い、という基本感覚が存在する。」

 いまの日本の「反知性主義」を批判しつつも、私はこの感覚にもどこか同意したくなる。

 学者たちが集会の演壇で「安保法制は立憲主義の破壊、『知性の危機』『学問の危機』なのです」と声高に訴えるのを聴いているうちに、その学者のひとりとして参加しているはずの私でさえ、

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