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国家戦略特区の活動状況と今後の課題

事業化に係る規制全体を洗い出し、一括して見直しできる仕組み導入を

高坂晶子 日本総研調査部主任研究員

 国家戦略特区(以下、特区)は、アベノミクス第1弾の3本目の矢「成長戦略」の中核をなす政策である。具体的には「区域を限って規制緩和その他の支援措置を行い、経済成長を促す」取り組みであり、2014年の制度発足から2015年度末までは、とくに「集中改革期間」とされてきた。同期間の終了を機に特区の活動を振り返り、今後に向けた課題を整理する。

◆特区指定の状況
 軸足は徐々に地方創生に

高坂原稿につく写真国家戦略特区事業者との連携により、完熟イチゴを使ったスイーツをPRする人たち=兵庫県養父市役所
 特区の指定作業は3度にわたって行われ、現在は10区域が活動中である。2014年5月に行われた1次指定のキャッチフレーズは「世界で1番ビジネスのしやすい環境」であり、このときには6件が指定された。2015年8月の2次指定(3件)では「新たな地方創生モデルの構築」、さらに2016年1月の3次指定(3件、うち2件は既存特区に追加指定)は「地方創生特区第二弾」と、徐々にその軸足を地方創生に移してきている。

 この背景には、社会的要請の変化がある。2013年12月に国家戦略特区法が成立した当時、日本経済の国際競争力への懸念が高まっていたことから、「内外からの民間投資を促して雇用創出や消費拡大につなげる」ことが政策目標とされた。しかし、こうした大都市の成長を促し、わが国経済を牽引する方針に対し、「大都市偏重」との批判が寄せられたため、その後、成長の恩恵を地方にも及ぼすというローカル・アベノミクスの観点が強調されるようになった。

 このように特区のコンセプトには多少の変遷があるものの、手法としては一貫して規制緩和重視である。具体的には、医療や農業、労働など長らく改革を拒んできた「岩盤規制」の見直しや、遠隔教育や自動走行・飛行といった近未来技術の実証が進められている。

◆各区域の活動状況

 図表は2016年3月末現在の各区域の活動状況である。東京、関西、愛知とわが国の主要ビジネス拠点が網羅される一方で、兵庫県養父市や秋田県仙北市など一次産業中心の地方都市も含まれる。これら地方都市は人口減少や高齢化、産業の衰退に直面するなかで、特区に打開策を求め、一次産業の生産性向上と食品加工、観光など周辺分野への展開、遠隔医療、ドローンを使った買い物難民対策などに取り組んでいる。一方、大都市圏の特徴ある事業としては、グローバルな都市間競争に向けた大規模再開発、先端医療や民泊等がある。

高坂原稿につく図各特区のテーマと活動内容

◆特区事業のレビューと今後の課題

 1次指定6区域の事業を評価した内閣府資料(注1) によると、ほとんどの特区で、規制緩和したものの実際には活用されていない事業が存在するなど十分な成果が得られているとは言い難い。要因として、以下の3点が指摘できる。

(注1)「平成27年度国家戦略特別区域の評価について(案)」国家戦略特別区域会議資料(2016年3月24日)。なお、2次、3次指定の特区については指定から1年が経過していないため本年の評価は未実施。

【不十分な規制緩和】

 岩盤規制改革に着手したことは画期的であるが、

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