メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

移動スーパーの現場から資本主義の未来を考える

シェアリングのビジネスモデルで、買い物難民問題を解決へ

村上稔 ㈱Tサポート代表取締役 沖縄国際大学沖縄経済環境研究所特別研究員

徳島県つるぎ町半田での販売風景。標高は400m以上

 買い物難民問題のソリューションとして、2012年から移動スーパーをプロデュースする仕事に取り組んでいる。これまで我々の作りだした移動スーパー「とくし丸」は全国で200台超。それぞれの地域で日々の買い物に苦労をしている人たちの役に立っている。

 私自身は2016年に独立して会社を興し、現在は徳島・香川両県の「とくし丸」27台の運営サポートをしている。この数年間、お客様探しのために歩き続け、戸別訪問した軒数は5万軒を超えた。そんな経験から本稿では、移動スーパーという仕事の厳しさと楽しさ、さらには買い物難民を生み出した資本主義の問題と未来について、地域を歩く現場からの声をあげてみたい。

きついけれど楽しい、移動スーパーの仕事

販売パートナーの金本さん。前職は外食レストラン店長=徳島市
 私自身、現在は各車をサポートする仕事に徹しているが、創業3年目までは自らがハンドルを握り、現場で販売をしてきた。その経験から言えるのは、この仕事は体力的にかなりきついということだ。朝は7時過ぎに拠点となるスーパーに入り、3時間近く準備をする。そして10時に出発、夕方の5時までずっと運転をしながら30カ所ほどで停まり、店を展開して販売をする。

 夕方、スーパーに帰ってきたら返品と翌日の準備。帰路につくのは夜の7時頃でほぼ12時間労働だ。ずっとアウトドアなので気候によってはかなり体にこたえる(日本の気候は、さわやかな時期は短く厳しい期間が長い)。始めて数カ月は正直「これは続かない」と感じていた。が、やがて半年もすると体が慣れてきて、何とかこなせるようになってきた。人間の体はかなりのところまで環境に適用するのである。

 きついのは体だけかというと、アタマも実によく使う。朝から晩まで、お客さんの注文や拠点店との連絡などでクルクルと考え続けている。一日が終わればぐったりだ。本当にハードな仕事なのである。

 ただ、こんなにきつい仕事なのだが、私が月に1回行う面談の中で、販売パートナーさん(車のオーナーで販売を担当する個人事業主)がいつも口にするのは、意外やその楽しさである。移動スーパーの仕事はきついけれども楽しいのである。

 まず販売現場が楽しい。すべてが対面販売なので、おしゃべりが楽しい。ほとんどが買い物に困っているお客様なので、一日中「ありがとう」のキャッチボールだ。お役に立っているのがリアルに感じられて自己効力感が満たされる。

自分の意志で「利他的」な行動決定ができる

販売車両は細かなノウハウで作り込まれている=徳島市
 また、それぞれが個人事業主であることも楽しさを醸してくれる。例えきつい仕事でも、自分の意思決定で進めていくというのは、そこはかとない喜びを感じさせてくれるものだ。前職で組織のストレスに苦しんできた人たちには、これがこの上ない充実感となる。株主や上司の支配下でなく、自分の意志で「利他的」な行動決定ができるというのは、何ともいえず楽しいものなのだ。

 「行動経済学」と言われる研究分野では、「利他的」であることは幸せを感じられる大きな要素だという。人の幸福にとって「お金」は大切なものだが、同時に「人の役に立っている感」もそれに劣らず欠かせない要素なのだ。我々の仕事の楽しみは、その多くの部分が利他的な原理に因っている気がする。

大資本が参入

 しかしここに来て、この買い物難民が「市場」であることに気づいた大資本が、一気に押し寄せてきた。全国区のチェーンストアやコンビニ各社など資本主義のマンモスたちが、こぞって私たちの軽トラックとそっくりの移動スーパーを作って参入してきたのである。我々の地元でも、明らかに2台は過剰供給であろう過疎地に大手コンビニの移動スーパーが割り込んできた。

 先の行動経済学には続きの研究があって、本来「利他的」である人間も、いったん競争市場に放り込まれると、たちまち利己的になってしまうという。数字がすべての世界では、利他的であることは何の意味もなさないので自然と「利己的」になってしまうというのだ。

 我々も、今後は「買い物難民争奪戦」といったおぞましいレッドオーシャンにいやおうなく巻き込まれていくのだろうか。いずれにしても移動スーパー業界は今、新しい局面を迎えている。

 買い物難民増加の原因についてはすでに多くが論じられているし、それほど複雑な問題ではない。要するに、

・・・ログインして読む
(残り:約1683文字/本文:約3448文字)