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「デフレマインド」脱却へ老後の不安の払拭を

成熟社会の「消費」拡大のカギ握るシニア層

土堤内昭雄 公益社団法人 日本フィランソロピー協会シニアフェロー

「マイナス金利」で消費は拡大するのか

 日銀が企業の設備投資や個人消費を促進してインフレ目標2%を達成するために、2016年2月「マイナス金利」を実施した。当時、内閣府が公表した2015年の10-12月期の実質GDPは、前期比年率換算1.4%の減少だった。要因は、企業の設備投資が増加したものの、冬物衣料の販売などが不振で個人消費が低迷したことや住宅投資の減少が影響したからだった。

 マイナス金利は国民生活にさまざまな影響を与える。若年層の場合、住宅ローン金利が低下し住宅購入意欲が高まるだろう。金利が低下したことで身の丈に合わない物件を購入して、ローン破綻しないよう注意が必要だ。一方、高齢層の場合は、歳を重ねると欲しいモノは少なくなり、預貯金の金利低下から金融資産の目減りが年金生活の不安を膨らませ、消費は抑制されるだろう。

 アベノミクスの重要な矢である「名目GDP600兆円」を実現するためには、企業収益の向上に加えて、賃金の上昇と個人消費の拡大が必要だ。しかし、個人消費の拡大には賃金の上昇だけでは不十分である。今はお金があっても消費者のこだわりを満たさないモノは売れない時代だからだ。賃金が上がり、それを持続的な消費につなげるためには、消費者のライフスタイルを具体化するあらたなモノやサービスの提供が不可欠だ。

 消費を無理やりつくり出すとバブルが生じる。現在、「名目GDP600兆円」達成への道のりが遠く感じられるのは、多様化した消費者のニーズを的確に把握して商品化することが困難な時代を迎えているからではないか。若者や高齢者のニーズも多様になり、本物の消費者ニーズは何なのか、人々の消費行動をつぶさに観察することが必要だ。

「デフレマインド」は、なぜ払拭できないのか

 日本経済は長くデフレの時代が続いた。日銀は物価安定目標であるインフレ率2%の実現に向けて量的・質的緩和によるマネタリーベースの拡大を図ってきたが、企業や家計のデフレマインドは容易には変わらない。人々は必ずしもお金がなくてモノが買えないのではなく、老後の不安などから消費を抑えたり貯蓄に専念したりしている。

 長期のデフレ時代に身についた生活防衛的な行動様式の根幹をなすデフレマインドを変えるには、企業収益の好調さを所得の上昇につなげるとともに老後の不安を払拭することが必要だ。デフレマインドの転換には日銀の金融政策だけではなく、超高齢社会の「長生きリスク」を緩和する社会保障政策との連携を図り、スムーズに所得が消費へ回る「お金」の好循環を促すことが重要だろう。

 老後に多くの資産があるに越したことはない。若いときには不慮の事故や病気による「早死にリスク」を心配し、高齢になると想定以上に長生きした場合の「長生きリスク」が気になるからだ。平均寿命を超えると要介護リスクも高まり医療費や介護費用を年金で賄うことができるか不安を覚える。日本社会の成熟化・高齢化にともない将来の不確実性に備える人が増えているのではないだろうか。

 1990年代に、「きんさん・ぎんさん」の愛称で親しまれた100歳を超える双子の姉妹がいた。屈託のない笑顔が幸せな日本の長寿社会の象徴のような存在で、

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