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トランプ氏は日米FTAを求めていない

アメリカは打つ手がないようだ。日本はどっしり構えていればいい

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

ワシントンから

トランプ米大統領(左)を出迎え、握手する安倍晋三首相=11月5日午後0時7分、埼玉県川越市の霞ケ関カンツリー倶楽部、代表撮影 トランプ米大統領(左)を出迎え、握手する安倍晋三首相=11月5日午後0時7分、埼玉県川越市の霞ケ関カンツリー倶楽部、代表撮影

 今ワシントンのホテルでこの原稿を書いている。ハーバード大学で開かれる今年の日米科学フォーラムに発表者として招聘されたのを機会に、時差調整を兼ねて通商関係の専門家と意見交換するためにワシントンに立ち寄ったのである。

 通商関係者といってもアメリカの行政府の担当者ではない。この人たちと話しても公式見解を言うだけで、重要なことは聞き出せないことは、自分の日本政府での経験からもよくわかっている。しかも、トランプ氏のような大統領の下では、行政府の人たち自身が、政権の中枢であるホワイトハウスが考えているアメリカの通商政策の内容自体を知らない可能性が高い。

 私が意見交換の相手にするのは、行政府から一定の距離を置き、客観的にトランプ氏政権の行動を分析できる能力を持つと同時に、政権に影響力を行使できる人たちである。具体的には、数あるシンクタンクの中でも優秀な研究者と連邦議会調査局の担当者である。

シンクタンクと連邦議会調査局の役割は極めて大きい

 アメリカのシンクタンクの人たちは単に政策の分析をしているのではない。彼らの政権への影響力は極めて大きい。また、アメリカでは、通商交渉の権限は憲法上行政府ではなく連邦議会に属している。行政府は議会から授権されて交渉するに過ぎないし、授権の際に様々な注文が付けられる。

 そもそも三権分立が日本よりはっきりしていて連邦議会の立法権限が強いうえ、通商交渉の憲法上の位置づけから、連邦議会調査局は通商政策の形成に極めて重要な役割を果たしている。彼らの分析結果を議員やそのスタッフが参考にして、通商政策が形成されていくのである。

 実は、トランプ政権になってから、彼らと会うのは初めてである。シンクタンクの人たちが言うのは、トランプ氏が何を考え、また何をしたいのかよくわからないということである。極めて重要な発表をすると予告しながら何も発言しないなど、その時々の対応を刹那(せつな)的にしているだけで整合性や内容があるとは考えられないというのである。しかし、トランプ氏やその周囲の人たちが何をしたくないのかは、彼らや連邦議会調査局の担当者との議論を通じて、ある程度わかるようになった。

トランプ氏は分析していない

 まず、トランプ氏が、TPP(環太平洋経済連携協定)やNAFTA(北米自由貿易協定)のどの部分がアメリカの不利益になったのか分析もしていないということである。

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