妊活セールス、エージェント……不妊産業の「死角」
2015年08月20日
もはや、「不妊産業」とも呼べる環境が、水面下で出来あがっているのではないか――。
朝、7時。東京・新宿にある有名クリニック「K」の前には、アラフォーとおぼしき女性が7時30分の開院を待っている。
不妊治療中の女性たちから、「最後の砦」とも評されるこの病院に来るために、地方からわざわざ泊まりがけで来ている女性もいる。東は「K」、西は福岡県にある「S」が不妊治療の世界では二大総本山になるという。
幾つもの病院を「不妊難民」として訪ね歩いた後、この病院の門を叩こうとしている女性もいる。真っ青な顔でうずくまったまま、微動だにしない女性もいれば、一心不乱にスマホで、「40代で妊娠した成功ストーリー」をネットで探す女性もいる。なんとも言い難い空間だ。
診療が終わりそうな時間になると、妙に笑顔が爽やかな中年の女性たちが、クリニックの出入り口付近に出没する。40歳前後で、独りで来院している女性を狙っていたかのようにちらしを渡し、
「妊活の最大の敵は冷え。カラダをあたためる方法が書いてあるのでどうぞ」
などと言葉巧みに接触していた。
次に、その中年女性は、自らの「奇跡的な高齢不妊治療の末の妊娠エピソード」などを引き合いに出しながら、特別で高価な葉酸などの健康食品のセールスを始める。
だが、売る側も売られる側も「現実」をわかった上での「セールストーク」なのが切ないところだ。
35歳以上は「高齢出産」。全国の平均妊娠率は22%〜23%(流産、中絶を含む)。治療周期のピークは39歳。40歳を過ぎると自然妊娠は極めて難しく1%程度、43歳は「デッドライン」と呼ばれ、体外受精でも1%程度に落ちる。
あらゆる本を買いあさり、ネットで情報を収集し、妊活セミナーが開かれれば出かけていく。医師並みの知識を持つ患者もいるのだ。
国の施策も、そうした状況と歩調を合わせつつある。これまで不妊治療の助成金は年齢制限がなかったが、2016年度からは、公費助成を受けられる女性の対象年齢は42歳までとされた。
それでも、明らかにインチキ臭漂うセールストークに耳を傾けてしまうのだ。
私(42歳)は、周囲に不妊治療をしている女性が多いせいか、その世界に興味を持つようになった。途中でこうした一縷の望みに希望を託した女性たちがあまりに多いことや、彼女たちが、あまりに簡単にその心情につけこむビジネスに引っかかることに疑問を持ち、生殖医療の世界で高名な医師にぶつけたところ、こんな答えが返ってきた。
「あなたが癌を宣告されたとする。
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