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電車内の化粧は本当に迷惑行為なのか?(下)

迷惑行為をマトリックス図で体系化してみる

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 前回に引き続き、電車内で化粧をする行為に対して「みっともない」とした東急の広告が物議を醸した問題について見ていこうと思います。

東急のマナー向上広告「わたしの東急線通学日記」の「歩きスマホ篇」の動画より東急のマナー向上広告「わたしの東急線通学日記」の「歩きスマホ篇」の動画より
 前回は東急の広告がなぜ問題とされたのかについて2つのポイントを指摘しましたが、そもそも電車内における化粧は、本当に迷惑行為の一つとしてカウントするべきなのでしょうか?

 そこで今回は、迷惑行為全体を体系的に整理することで、電車内における化粧という問題をより深く掘り下げたいと思います。

迷惑行為は7種類に分類できる

 まず、電車内における迷惑行為の多くは、五感(正確には味覚を除く四感)によって分類が可能だと思います。たとえば、イヤホンの音漏れは聴覚への、ポルノを見るのは視覚への、強烈なお酒の匂いを漂わせているのは嗅覚への、乗降時にぶつかったり押しのけたりすることは触覚への迷惑行為です。

 また、五感への迷惑行為以外には、衛生状態に関する迷惑行為、空間専有の迷惑行為、安全や秩序を害する迷惑行為の3つがあげられると思います。たとえば、衛生状態に関する迷惑行為としては嘔吐があります。空間専有の迷惑行為には、立っている人がいるにもかかわらず座席に荷物を置く行為、安全や秩序を害する迷惑行為としては気に食わない人に対して怒鳴り散らす行為等があげられます。

 では、五感に対する迷惑行為のうち、最も危害が少ないものはどれでしょうか? それはおそらく視覚に対する迷惑行為だと考えられます。理由は、目を逸らすことで回避可能だからです。他の嗅覚、聴覚、触覚に関しては、本人が避けようと思っていてもその空間から離脱する以外には対処が難しいため、視覚への迷惑行為に比べて相対的に迷惑の度合いは高いと位置付けることができるでしょう。

迷惑行為ではない2つの領域

 次に、それぞれの分類の中で、迷惑の度合いを階層化してみたいと思います。社会学の概念で、集団内における決まりごとについて、強制力の強さで「モーレス(強制力を持つ規範)」と「フォークウェイズ(自然発生的な習慣・慣習)」という2つの階層に分類する考え方がありますが、そのように電車内の決まりごとを階層化してみるのです。

 言わずもがなですが、階層化した際に最も上位に位置しているのは、既に法で規定された犯罪行為でしょう。痴漢や盗撮、暴力行為等は迷惑行為の枠を超えた違法行為ですから、最優先で取り組むべきです。

 逆に、迷惑だと思っている人が少なくないものの、決して迷惑行為ではないものもあります。たとえば、ベビーカーを畳まないで乗車することもその一つです。これには誤解が多いことから、国土交通省も「ベビーカーは折りたたまずに乗車できます」という見解を公表しているように、決して迷惑行為ではありません。

 これら2つに関しては議論の余地がありませんが、それ以外の迷惑行為だとされているものに関しては、人によって不快感が異なるため、迷惑行為の度合いの序列化は非常に難しいかもしれません。単に不快度が強いか否かで決めてしまっては、個人の判断によって異なる結果が生まれてしまいます。

3つの項目で迷惑行為を階層化する

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