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カンヌ「監督週間」50年、その裏側を聞く

ワイントロップ・ディレクター「カンヌができないことを補っている」

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

監督週間ディレクター、エドゥアール・ワイントロップ氏。
© Quinzaine des réalisateurs
「監督週間」ディレクターのエドゥアール・ワイントロップ氏 (c) Quinzaine des réalisateurs

 「革命」の嵐が吹き荒れた1968年、フランソワ・トリュフォーやジャン=リュック・ゴダールら血気盛んな監督たちは、カンヌ映画祭を実力行使で中止に追い込んだ。その翌年、フランス映画監督協会は、「映画の自由」を標榜し、官僚主義的でルールに縛られたカンヌに対抗する新しいセクションを立ち上げた。その名も「監督週間」。2018年で50回目の節目を迎えるカンヌの非公式部門だ。ジョージ·ルーカス、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、ケン・ローチ、マーティン・スコセッシ、ミヒャエル・ハネケ、ダルデンヌ兄弟、ソフィア・コッポラ、近年ではグザヴィエ・ドランに至るまで、ここで発掘された才能は枚挙にいとまがない。

 「カンヌの監督週間」と報道されるが、厳密には歴史的にも、カンヌの公式部門とはライバル関係にある。2012年からこのディレクターを務めるエドゥアール・ワイントロップ氏に、世界一の映画祭を挑発し続ける監督週間の裏側について話を伺った。

「反逆に対する反逆」をやってきた

――監督週間は当初から、カンヌの公式部門に対抗するべく誕生しました。一方、あなたはかつてリベラシオン紙のジャーナリストでしたが、この新聞もまた、反骨精神には定評があります。リベラシオン紙から監督週間へとつながるあなたの反骨精神は、実に自然な流れに思えるのですが。

ワイントロップ それは違うんですよ。私がリベラシオン紙にいた頃は、「反逆に対する反逆」をやってましたから。私は新聞が掲げる反骨に沿っていたわけではありません。私から見るとリベラシオン紙は、ある映画人グループからコンセンサスを受けた反逆をやっていたわけです。言わば、検印を押された、Bobo的(金持ち左派)反骨精神なのです。

――(笑) おっしゃることは、よくわかります! フランスには示し合わせたような「作家主義」が強いですよね。

ワイントロップ 映画界のある筋にとっては、「神聖なる監督」が存在し、彼らを絶対に褒めないといけません。彼らが何をしても、作品を愛さなければなりません。私は26年間リベラシオン紙にいましたが、その流れには決して足を踏み入れませんでした。当時は、新作映画が公開される毎週水曜のリベラシオンに付く映画の冊子に、私はあまり書きませんでした。執筆したのはたいてい木曜か金曜の普通の紙面です。つまり、編集部が私を映画批評に適しているとは思わなかったのです。

 実際、私は「作家主義」を全く信じていませんでした。私は良いリポーターやジャーナリストとは思われましたが、良い批評家とは見なされなかった。批評家としては蚊帳の外です。私は映画祭が好きなので、あらゆる映画祭のリポートを書き、その時に少しは作品評は書きました。しかし、新作の本格的な批評は頼まれなかったのです。

――それは意外でした。しかし、あなたが監督週間に入ったことで、この歴史あるセクションに、さらなる自由な風を加えたのではないですか。扱うジャンルは非常に幅広く、アニメ、ドキュメンタリー、テレビ映画、それに昨今はかなりコメディが目立ちます。

ワイントロップ そうですね。でも、もし良いと思うコメディがなければ、私は選びませんよ。コメディの現状にまで、責任は持てませんから。私の映画の嗜好は、自分のこれまでの人生から影響されてきたものです。私はリベラシオンに入る前からシネフィルでしたし、入ってからも自分のシネフィリー(映画愛)は守り続けました。私の好みはむしろ少数派でした。

 それから私は4年間、スイスの映画祭のディレクターとなりました。ここで多くのことを学びました。とりわけ観客のことや、チームの仕事についてです。忘れてはならないのは、映画祭のディレクターといっても、一人で映画を選ぶわけではないということ。チームワークが重要です。たとえ私と選定委員会のメンバーと意見が違っても、なぜ違うのかを知ることが、私には必要です。孤独の中で行う仕事ではありません。

監督週間にタブーはない

2017年の監督週間ポスター2017年の監督週間ポスター=撮影・筆者
――監督週間にとって、作品選定のためのタブーは一切ないのでしょうか。例えば公式セクションでは、二度も最高賞の「パルムドール」を獲ったエミール・クストリッツァの扱いが、近年よくありません。作品はおろか、スピーチでも名前を出しません。ロシアのプーチン大統領との近すぎる関係が、裏でマイナスになっているのではと勘ぐっているのですが。
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