大坪正則(スポーツ経営学)
2012年03月10日
米国メジャーリーグ(MLB)は実に貪欲だ。またもや、増収のための布石を打った。布石とは、2012年シーズンからプレーオフ出場チームを2011シーズンの8チームから10チームに拡大することだ。
従来は、ナショナルとアメリカンのそれぞれ地区優勝チームを除いて最高勝率の1チームに与えていたワイルドカード(WC)の権利を、新しいシステムでは各リーグ2チームに付与することになった。そして、プレーオフではまずWCの2チームが1試合を行い、勝利したチームが地区シリーズに進むことになる。
現行のテレビ放送契約が改訂される2014年から、MLBはおそらく、WC同士の試合を3勝先勝(最高で5戦まで)、その後のプレーオフでは、地区シリーズから4勝先勝(同じく7戦まで)にして試合数を増やすだろう。
そうなった場合、WCの試合からスタートして、地区シリーズ、リーグチャンピオンシップ、ワールドシリーズと進出する球団は最大26試合を戦うことになる。レギュラーシーズンの162試合を消化して、さらにまた、プレーオフとワールドシリーズで最大26試合をすることは選手や球団にとって荷が重くなるが、試合数の増加は収入増が見込めるので、必ずそうなるだろう。
MLBのテレビ放送権契約は、二つのルートに大別できる。
1)コミッショナー事務局が締結する全国市場向け放送
2)各球団が地元のテレビ局と結ぶ地方(地元)市場向け放送
現在(2013年まで)、コミッショナー事務局は、地上波放送のFOXに加え、衛星を利用して各地に配信するTBS(Turner Broadcasting System)とESPN(スポーツ専門チャンネル)の2局、合計3局と契約している。MLBの場合、30球団の年間主催試合数が81と試合数が多いため、全試合を全国市場向けに放送することは出来ない。
従って、全国放送されない試合の放送権契約は各球団に委ねられ、各球団は地元のテレビ局(主にRegional Sports Network、RSN)と契約を結んでいる。
MLBを含む米国のプロリーグは、放送権の契約と試合の放送スケジュールを組み立てる時に独自の戦略を展開する。その時の基本になるのがフランチャイズ制度と試合総数だ。すべての球団の地域独占営業権を保護してくれるフランチャイズ制度の下では、地区優勝争いから離脱するチームが出始める夏場頃まで、ファンは地元の球団を熱心に応援するのが一般的だ。だから、彼らは応援するチームのプレーオフ進出の可能性がなくなるまで他のチームを応援しない。
かかる心理的要素を勘案すると、夏場頃までのテレビ放送は各球団が締結するRSNによる試合中継で事足りる。実際、地上波放送のFOXは夏場頃までほとんどテレビ中継をしない。それまでの全国放送向けテレビ中継はTBSとESPNが中心になる。もちろん、この二つの局は、放送日を区分けして棲み分けるし、必要に応じ、時差を利用する。いずれにせよ、2局が放送する試合が同時間に重なるようなことはしない。
全国放送が本格化するのは夏場以降、地区優勝争いが熾烈になり始めてからだ。レギュラーシーズン終盤の優勝争いからプレーオフ、そして、ワールドシリーズまでの期間が全国放送の契約を結ぶテレビ局のかき入れ時になる。
そう考えると、MLBがWCを2チームに増やす営業的意図が理解できるし、同時に、プレーオフの試合数増加が全国市場に向けてテレビ中継するテレビ局にとっても経済的に極めて重要であることが分かる。
レギュラーシーズンの終盤に俄然試合が面白くなるのは日本のプロ野球(NPB)も同じだ。
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