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企業IDも含め民間活用を最大化したい

倉沢鉄也

倉沢鉄也 日鉄総研研究主幹

 政局の混乱の中で今国会の成立が見送られたが、ほとんど話題にならないまま今年度中には間違いなく成立することになる「マイナンバー法」。自民党政権以来、国民総背番号あるいは国民IDという表現からはじまって十数年の紆余曲折の検討を経てきたが、野田内閣の掲げる「税と社会保障の一体改革」(豊かに税を払える人からは社会保障費を削減する)の重要施策と位置付けられて、ここへきて急激に法制化とシステム構築が進められようとしている。

 そのスケジュール面、推進を前提とした上での課題となる個々の論点の検討については、すでに官邸直轄「内閣官房社会保障改革担当室」で国民向け広報のレベルまで進められている。プライバシー保護やリスク管理に代表される、この法制度をめぐる論点は多岐にわたり、本稿一篇だけでは論じきれない。今回成立が予定される法案自体は、システムの構築と政府・自治体の手続きのみへの導入、これに関わる国民自身の使用、に限定されているが、今後の利活用の展開も多面的に検討されており、WebRonzaにて中村多美子氏が論じているところ(「科学・環境」アリーナ、「マイナンバー法案の居心地の悪さ」(2012年07月20日))の漠然とした将来像への懸念も、もっともだと言える。したがってこのマイナンバー法については、個別テーマが取り上げられるたびに題材としていきたい。

 本稿ではそのきっかけとして、その将来像を見据える観点の1つを示しておく。それは、マイナンバーのために構築されるITシステムは、この用途だけでは投資対効果として明らかに無駄なものとなってしまうこと、だからこそこのITシステムが最大限活きるような多面的な活用方法を実現させ、投資対効果をいくらかでも向上させることがとても大事だということ、である。言い換えれば、頻繁に利用して使い勝手のよいアプリがあれば、マイナーなアプリの一つである「行政手続きでの共通番号利用」がそこに乗っていてもよかろう、という見方が広まっていき、なんとなく納得されていく、というシナリオが描ければ、近年の「行政手続きなんでも電子化」の失敗事例(例:パスポート発行の電子申請システムは、ほとんど利用されないまま発行実績1枚あたりで投資額が2,000万円弱となり、2006年に廃止)のようにならずにすむ、ということである。

 この点、官邸事務局でも、直近の対応とは担当部署を分けて、一歩先を行く検討を行っている。「IT戦略本部 電子行政に関するタスクフォース」でも、1)国民がログインするサイト「マイポータル」等を活用した「民間」同士の連携や、行政データの「民間」による活用、2)同時に整備される統一企業コード(企業ID)の活用、3)利用頻度が高く手続きが煩雑のままになっている行政手続きの合理化、を主な課題として、わかりやすい資料を公開しての検討を行っている。ただしこの検討内容は、あくまでも今回のマイナンバー法案で定められた利用の範囲内、すなわち政府と自治体の内部や政府・自治体間の縦割りの解決、高い信頼性を持つ特殊な「民間」(健康保険の保険者など)の利用に限られたものであり、利用シーンも「乳幼児予防接種」「退職」など、重要ではあるが1人の国民から見ると一生にそう何度も起きないイベントに対する利便性と行政事務効率化の追求にとどまっている。国民は、行政事務とは必要なときにしか接点を持たない。マクロに見れば大規模な事務量であっても、国民に関心はない。「引っ越し」のように手続き先が官(住民票、運転免許証等)がからんだときにはじめて文句が出てくる。それは個人のお金を払ってもいい快適なサービスを求める相手ではなく、空気のように何の抵抗も感じられない状態が行政サービスというもののゴールであろう。

 一方、私たちはこの10年強のパソコン・ケータイの進歩と普及にともなって、

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