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宇野昌磨には何が足りなかったのか?(下)

練習に間違いはなし。ならば、練習以外に必要なものは――

青嶋ひろの フリーライター

驚きのプログラム

 何より宇野昌磨本人が辛そうだったのは、世界選手権のための練習をたっぷりと、納得がいくまでしてきたのに、それが肝心の場所で出し切れなかったことだった。

フリーの得点を待つ間、肩を落とす宇野昌磨樋口美穂子コーチとフリーの得点を待つ宇野昌磨=アメリカ・ボストン
 「ジャンプでもプログラムでも、自分の満足のいくものができなかった。ほんとうに悔しいです。何を失敗したかより、あれだけの練習をしてきたのに、この結果で自分の練習を否定してしまったこと。そのことが、悔しいです」(フリー直後のコメント)

 練習での宇野昌磨を知っている人々は、「試合でなぜこんなミスをしてしまったのかわからない」と言う。

 それほど、ホームリンクでの彼のジャンプは完璧だった。

 4回転2本、トリプルアクセル2本を入れたフリーの通しを、一日何度もパーフェクトで滑っているという。

 さらに人々を驚かせた、フリーのあのジャンプ構成! 8本のジャンプの最後の3本が、なんと4回転トウループ、トリプルアクセル、トリプルアクセル‐トリプルトウのコンビネーション。スタミナの尽きる後半の最後の最後に、高難度ジャンプ3連発、である。

 トップグループの他の選手のジャンプ構成と比べてみてほしい。

 羽生結弦、ハビエル・フェルナンデス(スペイン)、ボーヤン・ジン(=金博洋、中国)でさえ、ラスト3本にはトリプルアクセル1本が入るのみ。他の選手はすべて、トリプルルッツまでの難度の低いジャンプで締めくくっている。

 4回転やトリプルアクセルなどというリスクの高い、体力の必要なジャンプは、フリーの序盤で跳んでしまうのが定石なのだ。宇野自身も、四大陸選手権までは4回転トウループ1本を後半に持ってくるのみで、フリー序盤に4回転1本、トリプルアクセル2本を跳んでいる。

 それが、よりによって世界選手権で、非常識なほどの難度で向かってくるとは! 

 この大胆な「作戦」を知った時、宇野とコーチたちの攻めの姿勢に大いに驚かされた。彼は現在、4回転ループを習得中で、実戦で使える4回転はトウループ1種類のみ。羽生やフェルナンデスのように3本の4回転をフリーに入れられない代わりに、後半のボーナス加点を狙って大玉ジャンプを最後半に集中させてきたのだろう、と。

「ワクワクする」から

 しかしこの構成を始めたきっかけを聞くと、さらに驚かされてしまう。

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