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ベルギーのテロで心配される日本の核施設の脆弱性

規定だけ決めて後は事業者まかせの日本、米国は日本が持つプルトニウムを懸念

前田史郎 朝日新聞論説委員

福島第二原発で行われた原発テロ対処訓練でテロリストに対処する銃器対策部隊=2013年5月11日、福島県富岡町、共同通信代表撮影福島第二原発で行われた原発テロ対処訓練でテロリストに対処する銃器対策部隊=2013年5月11日、福島県富岡町、共同通信代表撮影
  もし日本の原発がテロリストに狙われたら--。

 そんな心配が他人事とは思えない情報が発覚した。約370人の死傷者を出した3月のベルギー連続テロで、自爆死した兄弟が原子力施設の襲撃を検討していた疑いが浮上したのだ。

  兄弟はイブラヒム・バクラウィ(29)、ハリド・バクラウィ(27)の両容疑者。地元紙などによると、2人は同国北部モルの原子力施設に勤める技術者の動向を撮影していたという。技術者は、ベルギーの原子力研究の責任者の1人とされる。動画は昨年末、パリのテロ関連で実施されたた家宅捜索で押収されていた。

  ベルギーでは2カ所で原発が稼働しており、2人はその襲撃を狙った可能性がある。治安当局は原発の警備を強化、複数の原発従業員は立ち入りを禁じられたという。

  ベルギーで実際にテロが行われたのは、空港と地下鉄だった。原子力施設へのテロが察知されたため、直前に標的をかえたという見方も出ている。

  この事件では、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出した。シリアでジャーナリストの後藤健二さんら2人がISに拘束され、殺害されたことは記憶に新しい。

  50基の原発を抱える原発大国、日本にとって看過できない情報だ。

出遅れた核テロ対策

  原子力施設のテロ対策は、2001年9月の米同時多発テロ後、深刻な問題となった。もし原発に航空機が突っ込めば、被害ははかりしれない。乗っ取りという手法がその可能性に現実味をもたせた。

  上空からの攻撃を想定し、米国の原子力規制委員会(NRC)は全電源が喪失した場合に備えた非常対策を考えた。

  それが、「B5b」と呼ばれる規制条項だ。

  「航空機による自爆テロが起きた場合の対応」「航空機の種類、原子炉への衝突角度ごとの対応」「火災が発生し、電源が失われた時への対応」――。

 100余りの原発にこうした備えをはじめた米国は、06年と08年、日本にも同じような対応をとるよう経済産業省に警告した。しかし実際に9・11の同時多発テロを経験した国と、日本とでは温度差がある。「B5b」は日本の原発に導入されないまま、時間がすぎた。もし経産省がテロを想定した過酷事故対策を課していれば、東京電力福島第一原発事故の被害を軽減できた可能性が高い。

  過酷事故への対策が日本の規制基準に導入されたのは、福島の反省をもとに、12年に原子力規制庁が発足した後だ。

  核テロには2タイプあると言われる。

  一つは原子力施設を物理的に破壊し、ダメージを与える方法。もう一つは核物質を内部から盗み出し、爆弾でばらまく手法。今回のベルギーの例は、核物質の盗難を狙った後者のケースとの見方が強い。

  日本でも核関連施設内に不審者が紛れ込むのを警戒する必要がある。しかし原発職員のセキュリティチェックについても、日本は先進国のなかでおくれを取っている。

  11年1月、国際原子力機関(IAEA)は核物質防護勧告(INFCIRC/225/Rev.5)を発表し、日本に対しても着実な実施を求めた。原子力規制委はワーキンググループを発足させ、原発勤務者の信頼性確認制度の導入を検討してきたが、約3年がかりでやっと最近、制度化にいたった状況だ。

  それも結局は各電力会社が、防護区域等に入る社員の職歴や賞罰歴、法律上の責任能力、テロ活動を行うおそれのある団体との関連などを自主申告させ、適性検査もするという。これらは、原子炉等規制法にもとづき、規制委が規則で定めることとなった。

  これでは規定だけつくり、あとは事業者におまかせというに等しい。

  新法をつくって国の責任で厳格な管理態勢を敷くべきだ。当初、有識者の間にはそうした意見もあったが、いつの間にか後退した状態だ。

  原子力規制庁の元幹部は言う。

  「日本では首相官邸に入る人間ですらバックグラウンドを十分にチェックできていない。原子力関係施設でそれをやるとなると、相当の反対の声を覚悟しないといけない」

  確かに個人のプライバシーは守られなければならない。情報へのアクセスを法律で制限することにも慎重であるべきだ。日本弁護士連合会がプライバシー侵害の恐れなどを理由に反対していることもうなずける。

  だからこそ日本流のセキュリティ管理のあり方に、もっと知恵を出すべき時だろう。

  重要施設に入る時は

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