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法廷通訳は権利の問題

法廷通訳に関する法的枠組みがないままの日本

白木麗弥 弁護士

 もしもあなたが、海外旅行先で突然警察に逮捕されたとして、警察官が取り調べで何を言っているのかわからないとしたら…。

 通訳はいるが、いろいろと聞いてもおかしな日本語しか出てこないので、しかたなくどういう意味なのか探りながら回答すると、今度は警察官が意外にも怒り出してしまったとしたら…。

 少しは話せるかと思い英語の通訳を頼んだものの、この先の見通しになると単語が難しすぎてよくわからない。挙げ句の果てに裁判所でもわからないうちに、刑に服さなければいけないことになった…。

自分の使用言語が障壁になって助けが得られない外国人は多数実在

ブルネイ出身の法廷通訳・須田麗子さん=新潟市
 こんな悪夢は昔の話とお思いになる方もおられるかもしれません。しかし、現在の日本において、こんな絶望的な思いを抱いている、日本語を話せない外国人は実在します。

 総務省統計局のデータによれば2016年12月だけでも200弱の国と地域から日本に入国した人々がいます。一つの国で複数の言語が使われている場合もあります。このことからしても、日本ではかなりの数の言語が使われていることになります。

 警察に逮捕され、場合によっては裁判を受け、刑を科される可能性のある刑事事件はもちろん、経済的に、そして精神的に大きなダメージを受けかねない民事事件でも専門家の助けが必要な場合が多くあるのに、自分の使用言語が障壁となってそのような助けを受けられないとしたら。それは言語のために自分の裁判を受ける権利、人身の自由や財産の自由が危険にさらされてしまうことになるのです。

 法廷通訳の制度をどうすべきか、裁判員裁判の導入時に議論が盛り上がったこともありました。しかし、結果的に、法廷通訳に関する法的な枠組みはないまま現在に至ります。では、いったい、どのような状況なのでしょうか。

法廷通訳の募集は裁判所ごと

 現在、法廷通訳の募集は裁判所ごとにしています。裁判傍聴の後、裁判所の面接で問題がないと判断された場合、通訳はその裁判所に登録されます。

 最高裁判所事務総局によると、平成27年4月1日時点で、全国で61言語、3909人が裁判所に法廷通訳として登録されているそうです。通訳数が確保できない言語の場合、同じ通訳が遠隔地を含めて複数の裁判所に登録されることも珍しくありません。

 採用されれば基礎研修やセミナー、フォローアップ研修を受講することができるようですが、すべての登録者が研修を受けられているとは限らないとも聞いています。

厳しい待遇、法廷通訳で食べていける人はごく少数

 実際に対価を得られる仕事となるのは、裁判所の書記官から事件の担当をお願いされたときです。しかし、元々会議通訳よりかなり低い報酬相場でありながら、最終的な報酬額がわかるのは、全ての仕事が終わった後です。しかも、難しい法律文書の翻訳を事実上頼まれますが、これに対する報酬は全く出ません。そして、次にいつ法廷通訳の仕事をもらえるのかについては全く見通しが立ちません。

 法廷通訳は前述したとおり、人の権利に関わる重要な仕事です。しかも要求されるのはネイティヴレベルの語学力(…法律用語からスラングまで訳せないといけないわけですからね…)と、

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