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オバマの「右往左往」で世界とシリアは混乱――理念と内政、国際政治を堂々巡り

春名幹男 早稲田大学客員教授(米政治安保、インテリジェンス)

 近年、これほど自らの右往左往ぶりを表面化させた米大統領はあまりいない。

 カーター元大統領(1977~81)以来かもしれない。大統領再選と在イラン米大使館占拠事件を抱えたカーター氏は同事件を解決できず、再選にも失敗した。

 オバマ大統領は自分の「レームダック化」と「シリア」を抱えて、2014年6月のシリア化学兵器廃棄期限を迎える。失敗すれば、早期レームダック化は避けられない。それどころか、カーター政権末期に起きたイランのイスラム革命、ソ連のアフガニスタン侵攻のような世界の秩序を混乱に陥れる出来事を誘発させる可能性も増す。

 唯一の超大国米国が権威を失墜させるような結果に至るかどうか、極めて注目される。

「アマチュアの時間」

 8月21日にシリアの大規模な化学兵器使用で女性や子供を含む1400人を超す死者を出したとみられる事件以後、オバマ大統領が取ったのは、協議の場を、行き詰まるたびにくるくると変える戦術的転換だった。

会談に先立ち、記者団に話す米国のケリー国務長官(左)とロシアのラブロフ外相=2013年9月13日、ジュネーブ会談に先立ち、記者団に話す米国のケリー国務長官(左)とロシアのラブロフ外相=2013年9月13日、ジュネーブ
 対シリア武力行使容認決議案がロシアなどの反対で葬られ、国連安保理討議で失敗すると、次は「理念重視」、「内政重視」さらに「国際政治重視」と方向転換していった。

 理念とは大量破壊兵器(WMD)の拡散阻止であり、人道目的の軍事介入を許容する思考でもある。内政とは2014年の中間選挙を控え、レームダック化を防ぐための政治力強化策、そして国際政治面では、唯一の超大国として世界をリードする力量を維持することだ。

 しかし、その間「限定的な軍事介入の決意」から「議会での武力行使容認決議の要請」、さらに「シリア化学兵器の廃棄合意」へと大統領は揺れ動いた。大統領自身の外交・安保戦略の底の浅さを露呈してしまったことが苦境を招いたと言っても過言ではない。

 ワシントン・ポスト紙の保守系コラムニスト、チャールズ・クラウトハマー氏はオバマ大統領の行動を「素人の時間」と厳しく非難したほどだ。

 この間、オバマ大統領は自分が向き合う人物をコロコロと変えた。

 理念を追い求めた時期は、リベラル系タカ派とも言われるサマンサ・パワー国連大使やそれに似た考えを持つスーザン・ライス補佐官、と2人の女性高官の意見を取り入れた。パワー氏はジャーナリストとして、米国がルワンダなどの虐殺に介入しなかったことをテーマにした著書『地獄からの問題』でピューリッツアー賞を受賞。またハーバード大学法学博士としての研究実績もある異色の存在。各シンクタンクなどは、シリアへの軍事介入論については、彼女から直接意見を聴取した。

 しかし、オバマ大統領は慎重派の最側近デニス・マクドノー首席補佐官との2人だけの協議後、突如シリア攻撃の論議を議会に委ねた。議会側から審議を求める要請があったのも事実だが、世論調査でシリア攻撃反対が50%を超えたこともあり、議会にも責任を負わせる狙いがあったのではないか。

ひょうたんから駒

 議会審議中には、マケイン上院議員、ベイナー下院議長らとの協議も重ねたが、軍事介入支持の意見は伸びず、困惑。その時、「ひょうたんから駒」のような形で、ロシア側からシリアの化学兵器「国際管理案」が出され、オバマ政権はそれに乗った。

 ケリー国務長官が冗談のような形で持ち出した話に、ラブロフ・ロシア外相が飛び付いた形だが、実際には米ロ間で1年前の首脳会談以来、協議の議題になっていた。

 ジュネーブで3日間にわたり行われた米ロ外相会談で、シリア化学兵器の廃棄行程表で合意した。この合意に法的拘束力はなく、今後化学兵器禁止機関(OPCW)の執行理事会でこの合意の承認を得る。さらに国連安保理でも決議を採択、化学兵器廃棄に向けてシリアの協力を義務化する。

 結局舞台は、当初の国連に戻ったのである。

 こうした経緯から見えてきたのは、行き当たりばったりの「彷徨」だった。

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