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イスラム教徒を友にするために

1月20日付朝日新聞が突きつけた課題

川嶋淳司 放送大学非常勤講師(中東研究)

 日本人にとって1月20日は「イスラム国」のメッセージ・ビデオが流れた日として記憶に残るだろう。

 「イスラム国」の脅威に対するカギは、イスラム教徒との連帯だと思う。多くのイスラム教徒は今回の人質事件を非難し、暴力を否定している。「イスラムvs非イスラム」の構図は、テロリストが暴力を正当化するロジックに他ならない。今こそイスラム教徒を友とすべき時だ。

朝日2015年1月20日付の朝日新聞(東京本社版)朝刊一面
 しかし、1月20日付の朝日新聞を読んで、この点について日本はずいぶんと心もとないのではないかと思ってしまった。その日の紙面は、どのようにイスラム世界と向き合うのか問いかける。

 「イスラム国」の最初のビデオがインターネットに出回り始めたのが20日の午後なので、その日の朝刊は事件には触れていない。

 朝刊の紙面は、その日の午後に大騒ぎになる人質事件など知る由もなく、それまで話題となっていたフランスでのテロ事件、それに預言者の風刺画問題を取り上げている。当日の朝日新聞を開いてみよう。

 その日の朝刊は、パレスチナのアッバス議長の単独インタビューが一面トップだ。「表現の自由があるのは知っているが、ムハンマドもキリストも侮辱すべきではない」というアッバス議長の言葉は、朝日新聞をはじめ日本主要紙の論調と重なる。

 このインタビュー記事は三面へと続いており、アッバス議長がイスラエルのネタニヤフ首相と並んでフランス行進に参加したことに対する賛否の声を報じている。その下にある岸田外相の訪仏の記事は、「テロとの戦い」への協力と支援を掲げる日本の外交ぶりを伝える。

 イスラム過激派のテロを抑え込むことに「関与し過ぎると今度は日本が標的の一つとなる可能性がある」との日本政府関係者の声も紹介していて、いま読み返してみると不気味な感じがする。

 そして、ページをめくると目に飛び込んできたのは、ある新興宗教団体の新刊本の広告だった。

 その宣伝文句によれば、イスラム教の預言者ムハンマドが風刺画問題について語っている本らしい。というのも、この新興宗教団体の教義では、その教祖が「この世を去った世界に存在するさまざまな霊人を招き、霊人の言葉を伝えること」ができることになっているからだ。

 つまり、その新興宗教団体は、イスラム教の預言者ムハンマドが語った内容として本を出した。それも、世間を騒がせている風刺画の問題について。

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