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トルコで進行するエルドアン大統領への権力集中

ロシアとの関係強化で、EU・アメリカとの関係に変化も

岩坂将充 同志社大学高等研究教育機構准教授、博士(地域研究)

投票終了後、改憲賛成の勝利を確信し、トルコ国旗を手に車から乗り出す賛成派の人たち=4月16日

 2017年4月16日に実施されたトルコの改憲についての国民投票は、投票率85.4%という状況で、賛成票が51.4%、反対票が48.6%という僅差で承認された。共和国建国以来90年以上継続してきた議院内閣制に代えて2019年11月(予定)に大統領制の導入を目指すこの改憲は、立法府・司法府に比して執政府(ないし大統領個人)に多くの権限を集中させるものであり、権力分立の観点からも批判が噴出していた。にもかかわらず、このような結果となったのはなぜだろうか。また、この結果によってトルコはどのような方向に進んでいくのだろうか。

改憲承認の背景にトルコの不安定な状況

 改憲承認の背景については、まず、現在のトルコの不安定な状況を確認する必要がある。近年、トルコでは、政府が「テロ組織」に認定するクルド系組織・PKKやIS(「イスラーム国」)によるものとされる事件が頻発している。こうした直接的な治安の悪化・社会不安の増大に加え、2016年7月15日に生じたクーデタ「未遂」や、その背後にいると政府が断定するヒズメト運動(説教師・著述家であるギュレンの思想を支持するグループ。ギュレン運動とも)への対策のために「強いリーダー」が必要であると考える人々は、今回の国民投票で賛成票を投じたと思われる。また、より長期的な視野で、トルコのこれまでの軍や司法機関による政治介入の歴史を塗り替え、真の意味での国民の政治を実現するために文民の「強いリーダー」を求める人々の多くも、賛成に回った。

「強すぎるリーダー」誕生に危機感おぼえる人々も

 しかし一方で、「強すぎるリーダー」の誕生に危機感をおぼえる人々も多数存在した。政治介入の歴史には否定的であるが、一人の政治家への権力集中に限度がある議院内閣制の維持を支持する人々は、反対票を投じた。また一部には、エルドアン大統領の出身政党であり単独与党である公正発展党(AKP)の支持者であっても、エルドアン以外の人物が将来「強すぎるリーダー」の座に就くことを懸念し、改憲に反対した人々もいるといわれている。

 こうした状況で、政党としては、AKPとトルコ民族主義を掲げる民族主義者行動党(MHP)の議会主流派が賛成を、野党第一党の共和人民党(CHP)とクルド系政党の流れをくむ人民民主党(HDP)、そしてMHP議会反主流派が反対を表明し、それぞれキャンペーンをおこなった。各種報道によると、反対派のキャンペーンは集会や報道などで制約を受け、逆に賛成派のキャンペーンは大々的に報じられるなど、扱いに大きな差があったとされる。にもかかわらず、従来AKPが強いとされてきたイスタンブールや首都アンカラでは反対票が賛成票を上回るなど、「強すぎるリーダー」の誕生を危惧する人々の声は予想以上に大きく、僅差という結果をもたらした。しかしいずれにしても、国民投票が浮き彫りにした両者の溝は、現在の政治・社会情勢のみならず、共和国の歴史や将来をどのようにとらえるかといった点も反映したものであり、容易に解消できるものではないと考えられる。

 改憲承認の勝利宣言をおこなった直後、エルドアンはクーデタ「未遂」に関する死刑制度の復活に言及し、AKPやMHPとの協議を進めると表明した。2017年5月末の時点でこれに関する具体的な動きはないが、

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