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[42]非情の相を、しかと眼をこらして…

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

世田谷パブリックシアター開場 20 周年記念公演『子午線の祀り』 撮影:細野 晋司世田谷パブリックシアター開場20周年記念公演『子午線の祀り』  撮影:細野晋司
7月11日(火) 今週は『報道特集』が、「音楽の日」とかの全局編成で休みになってしまったので(長い番組の歴史のなかで、オリンピックや世界陸上中継のためといった事情以外では初めてのことだ)、短い夏休みをとることになった。この文章は「漂流キャスター日誌」なので、休日のプライベートなことまで記すつもりはない。東京を遠く離れる。だがまだ国内だ。

 イラクのモスルがISIS(イラク・シリア・イスラム国)から解放されたとの宣言。これからあの場所はどうなっていくのだろうか。イスラム教のシーア派、スンニ派の宗派対立が根底にあって、それほど簡単にISISの問題が消滅することはないだろう。これはテロリズムという一言で片付くような問題ではないのだと僕は思っている。だから現地でこの目で見なければならない。

チャップリン! すごいや

7月12日(水) プールサイドで『チャプリンが日本を走った』(千葉伸夫、青蛙房)を読む。この本自体はかなり前に(1992年)出版されたものだが、これが何と言うか今読んでも、と言うか今という時代だからこそか、滅茶苦茶に面白いのである。チャップリンは日本を計4回訪れている。その時、彼を日本はどのように迎えて、彼は何をしていたのか? 何とチャップリンが初来日した翌日に5・15事件が起きていたこととか、殺された犬養毅首相がチャップリンを官邸に招いて歓迎のための懇談会を予定していたためチャップリンも5・15事件での暗殺対象になっていたとか、事件のあと国民が喪に服しているなか、チャップリンが自由奔放に芸者をあげてどんちゃん騒ぎをしたり、てんぷらを腹いっぱい食べていたこととか、まさに「目から鱗」の思いで読み進む。自由人、アナーキー、ソシアリストのチャップリン! すごいや。

 夜、ホテルの部屋でテレビをつけたらNHKの『クローズアップ現代+』が国連軍縮部門の事務次長・中満泉さんのインタビューを流していた。被爆地出身の日本の外務大臣や日本の国連大使にこそ見てほしいと思いながら、うとうととして眠りにおちる。

7月13日(木) 車で移動。宿を変える。右腕の痛みがとれない。まいった。急性の筋肉痛かと思っていたが、湿布をしても痛みがとれない、お風呂に入って温めると若干痛みが和らぐような気がする。と言うことは慢性的なものから来る痛みか。

 中国の人権活動家・劉暁波氏が死去。ガンで。61歳。死刑囚2名の執行。うち一人は再審請求中だった。あの金田勝年法務大臣が死刑執行指揮書にサインをしたということだ。記者会見で金田法相は「再審請求を行っているから執行しないという考えは採っていない」と言明していた。金田氏は、例によって法務省のお役人が書いた作文を手に、それをまるまる読み上げているか、あるいは時折紙から目を上げて自分の言葉で話しているように演じているだけなのだ。このような人物が法務大臣をつとめているという悲劇は、もはや悲劇を通り越して喜劇に成り果てようとしている。

驕れる人も久しからず

7月14日(金) 短い休暇も朝で終わり。午後にはもう東京にいた。なんて暑いんだ。僕らがいた南の地よりはるかに暑い。

 暦通りだと世の中は明日から3連休なので、午後、都心から外へと向かう道路は大変な混みようだ。それでわずか3分ほどの遅れで、楽しみにしていた世田谷パブリックシアターの『子午線の祀り』の冒頭部分を見逃してしまった。何やってんだか。モニターを通じてみていたが、この冒頭部分はとても重要なパートなのだ。「金平さん、ダメじゃないですか。この頭のとこ、大事なんですよ。新しい演出部分だし」と会場でお会いした新国立劇場元プロデューサーの古川恒一さんに叱られてしまった。ありがたいことだ。

 その序幕部分が終わってすぐに会場に着席することができた。以降、

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