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ユロはハムレット?フランスの原発削減先送り

環境運動家出身、マクロン政権の人気大臣の方向転換をめぐり国内では賛否両論

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

「現実主義者」か「変節者」か

ニコラ・ユロ環境連帯移行相(環境連帯移行省・Crédits : A.Bouissou / Terra)ニコラ・ユロ環境連帯移行相(環境連帯移行省・Crédits : A.Bouissou / Terra)

 ニコラ・ユロ環境連帯大臣は「現実主義者」なのか、それとも「変節者」か――。就任半年で、原発(58基)数の減少は「困難」と明言。環境運動家らしくない方向転換をした彼に、フランス国内で賛否両論が渦巻いている。

 エマニュエル・マクロン大統領は、フランソワ・オランド前大統領の時代に決めた「電力生産における原発の割合を2025年までに現在の72%から50%に減少」を厳守すると選挙キャンペーン中から公約してきた。ユロ自身、7月の初の記者会見ではこれを一歩進め、「2025年までに削減数を最大17基まで減らす」と具体的な数字も挙げてみせた。

 ところが、就任から半年がたった11月7日、ユロは主張を一転させる。「この日程(2025年までに50%まで減少)を保持するのは困難だ。化石燃料(石炭、石油)を基盤にした電力生産を推進する場合を除くと」としたうえで、「もし、この2025年の日程を保持するなら、われわれの気候目的を犠牲にしなくてはならない。もし、この日程を遂行するなら、火力発電所を再開しなければならないだろう」と指摘。「現実的」な日程として、「政府は2030年か2035年」を検討中と述べたのである。

 要するに、無理して2025年の日程を守ろうとすれば、再生可能なエネルギー(風力や太陽熱)活用がまだ不十分な現況では火力発電所を再開せざるをえず、その結果、温室効果ガス汚染値も増えるというわけである。

エコロジストや極右政党が批判

 ユロが挙げた延期の理由を理解できないわけでもない。彼は環境活動家として、2015年暮れにパリで開催されたCOP21(第21回気候変動枠組み条約締約)ではオランド大統領(当時)の特使として世界を飛び回り、締約国と下交渉した人物だ。地球の気温上昇を1.5度C以下に抑える努力をすることで合意した「パリ協定」にも関与した。専門家の試算によると、目標達成のためには21世紀後半に世界の温室効果ガス排出を実質ゼロにする必要がある。

 このユロの方向転換発言を、エコロジストの一部や極右政党・国民戦線(FN)、極左グループ「服従しないフランス」の議員らは早速、「変節」「敗北主義」として批判。マクロン政権に対する攻撃を強め、ユロの辞任を迫っている。日本でも、「電力会社の圧力に屈した」などとユロの「変節ぶり」を伝えるトーンが強い。

原発反対派は少数派のフランス

 だが、実はフランスでは、日本と異なり、原発反対派は少数派だ。1970年代の石油ショックに際し産油国の言いなりにならず、「エネルギーの独立」を掲げて原発推進を続けてきたという歴史が背景がある。フランスの国の理念は、「自由、平等、博愛」だが、フランス人にとって、「独立」という言葉も有無をいわせない説得力がある。

 先の大統領選の有力候補者だったFNのマリーヌ・ルペン党首や極左グループ「服従しないフランス」のリーダー、ジャンリュック・メランションは「原発全廃派」だ。大統領選でエコロジストの票獲得を狙った「政治的作戦」の面が強かったが、実際には成功したと言い難い。2012年の大統領でも、3・11の福島原発事故を受けてにわかに原発問題が浮上したが、2回目の投票前におこなわれたTV討論会ではまったく議題にもならなかった。

最古の原発の閉鎖は「ただし書き」つき

 

ドイツ国境近くのフランス最古のフェッセンハイム原発=エルザ・カディエ氏撮影ドイツ国境近くのフランス最古のフェッセンハイム原発=エルザ・カディエ氏撮影

 象徴的な事件がある。

 5月の大統領選を約1カ月後に控えた4月6日、パリ市内の仏電力公社(EDF)本社前で、数百人が歓声を上げた。

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