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“順風”マクロンを悩ます難民問題

「新難民法」をノーベル文学賞作家らが批判。メルケル独首相の苦境見てスタンスも変化

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

「新難民法」めぐり激しい国内論争

難民問題での会議を終えて記者会見にのぞんだ仏マクロン大統領(左)と独メルケル首相=2017年8月28日、パリ難民問題での会議を終えて記者会見にのぞんだ仏マクロン大統領(左)と独メルケル首相=2017年8月28日、パリ

 ヨーロッパ大陸を彷徨(ほうこう)する難民問題は、「欧州の喉(のど)に刺さったトゲ」といわれ、ほとんど解決不能の難問といっていい。昨年末に支持率が回復するなど順風が吹いているエマニュエル・マクロン仏大統領にとっても同様で、難民政策には大いに頭を悩ませている。「新難民法」を準備したものの、ノーベル文学賞受賞者のジャンマリ=ギュスターヴ・ルクレジオから「政治が冷酷な怪物になった」とかみつかれ、フランス国内では激しい論争が巻き起こっている。

 ルクレジオの舌鋒(ぜっぽう)は鋭い。マクロン政権の難民政策を「耐えがたい人間性の否定だ」と強烈に非難。「どうやって難民を選別することができるのか。どうやって政治的な理由で受け入れを享受できる難民と、それに値しない難民とを区別するのか。どうやって彼らの祖国で危険が待ち構えているからと政治亡命を申請する者と、経済的な理由で彼らの国を脱出してきた者を区別するのか」と指摘したうえで、「この法律や制度は、人間的感情をまったく尊重していない」と断じた。

難民問題に敏感な「彷徨の作家」

 ルクレジオは「ヌーボ・ロマンの旗手」と称され、2008年度のノーベル文学賞に輝いた。日本でも処女作「調書」(1963年刊)をはじめ、「発熱」「洪水」など多くの作品が翻訳されている。自身はフランスの南部、ニース生まれのフランス人だが、父親はイギリス国籍で母親はフランス国籍である。両親の出身地のモーリシャス島(インド洋)が、フランス領からイギリス領にかわるなどした結果だ。

 少年時代、軍医だった父親の勤務先のナイジェリアで過ごしたこともある。また、母親に抱かれて遠距離を旅行したこともある。こうした生い立ちや体験を映した作風から、「彷徨の作家」といわれており、難民問題にも敏感だとされる。

 マクロン政権は、「新難民法」を2月末に閣議決定し、4月に国民議会(下院)で審議を開始する予定だが、内務省が発布した“新難民法”にからむ通達の内容が明らかになったのを機に、ルクレジオをはじめ、知識階級や人道団体などから一斉に批判の声が上がった。

ナチスを想起させる“選別”のやり方

 ルクレジオの非難に対し、マクロン大統領は「にせの良識を警戒するべきだ」と一蹴し、政権の難民政策は「人間性と効果性」を原則にしていると反論した。しかし、ルクレジオらにひるむ気配はない。 

 まず、やり玉にあげられたのが、通達にあった“選別”のやり方だ。亡命申請者を「臨時収容所(複数)」に集めたうえで、書類審査に基づいて選ぶとされたが、それが第2次世界大戦中にドイツ・ナチスがユダヤ系住人を集結させ、強制収容所に送りこんだ過去を想起させるとして、「人間性に欠ける」と批判されたのだ。

 これに対し、ジェラール・コロン内相は「通達に対して曲解がある」と抗弁する。

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