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神岡発!アインシュタインの波を捕まえる〈WEBRONZA地底から科学カフェ1〉

梶田隆章×尾関章

梶田 隆章

 地底から、広大な宇宙に耳を澄ます。そんな科学探究が、日本列島のど真ん中で本格的に始まろうとしている。謎の素粒子ニュートリノの観測で有名な東京大学宇宙線研究所が、岐阜・富山県境の神岡鉱山地下に、人類には未体験の「波」を受信する巨大装置を造ろうという計画だ。その波とは、宇宙のかなたから届く重力波――アインシュタインの理論が予言する時空のさざ波である。空間そのもののかすかな揺らぎを、1辺3kmのL字形パイプにレーザー光を通して感じとるのだ、という。建設はこれからで、動き出すのは5~6年先の見通しだが、原型機はすでに神岡の地下実験室にある。臨場感あふれるその現場で、科学者と科学記者が重力波を捕まえる興奮を語り合った。3回に分けて採録する〈1回目のみは無料〉。

《対談》梶田隆章さん(東京大学宇宙線研究所長)/尾関章(朝日新聞編集委員)《資料・撮影協力》大橋正健さん、三代木伸二さん、内山隆さん、宮川治さん(いずれも宇宙線研)=この記事に添えた実験室内の写真は、三代木さん、内山さんが撮影

☆この採録では、当日の対談を極力忠実に再現しましたが、不要な箇所、わかりにくい箇所などを削ったり、正確を期すために一部言葉を補ったりしました。本文に添えた図の一部は、当日用いたものとは別のものになっています。

☆対談の模様は、ニコニコ生放送で7月24日、ライブ中継されました。タイムシフトでご覧になれます。

尾関 ニコニコ生放送をごらんの皆様、こんにちは。私今おりますのは、ごらんになって分かるとおり、洞窟(どうくつ)の中なんですが、普通の洞窟ではありません。岐阜・富山県境近くにございます神岡鉱山の地下1000mにあります東京大学宇宙線研究所の施設に来ております。きょうここから生放送いたしますのも、宇宙線研究所の所長でいらっしゃる梶田隆章教授にお越しいただいておりまして、この神岡で数年後に始まろうとしている、重力波というものをつかまえようという、大プロジェクトのお話をですね、ゆっくりと伺えればと思っています。梶田先生、よろしくお願いいたします。

梶田 宇宙線研究所の梶田です。本日はよろしくお願いいたします。

尾関 まず何といってもですね、ごらんの通り、こういう実際に基礎科学の最前線の現場といいましょうか、そこに私たち踏み入れておりますので、きょうはですね、まあ、いろんな基礎科学についての議論などもしていきたいんですが、その前に、やっぱりこの研究施設そのものをずうっと皆さんと一緒に見ていきたいと思っております。ここは東京大学宇宙線研究所の神岡宇宙素粒子研究施設というところでありまして、幾つもの実験が同時並行的に行われています。皆さんご存知の通り、この神岡は、1987年に、遠くの大マゼラン雲という銀河から届いたニュートリノという素粒子を世界で初めてつかまえた。で、それが理由で、当時のリーダーであった小柴昌俊さんがノーベル賞をお取りになったというところでもあります。そういうニュートリノですとか、あるいは最近科学ファンには知られている暗黒物質とか、それもここで観測しようとしています。

そういう中で、今度重力波というのをやろうということなんですね。ただ、重力波も、もう既にここに小さな観測装置はできています。その部屋に、きょう私たちはお邪魔しているわけですね。まず、この重力波の原型機、これから作ろうと思う大装置の原型機を納めてありますこの一角をちょっと、ライブ映像でごらんいただければと思います。

《これから、しばらく実験施設内の映像。重力波の検出では、赤外線のレーザー光を干渉計という装置に入れるが、そのあたりの機器類が映し出される。干渉計は、この原型機の場合、100mのパイプと100mのパイプがL字型につながっている。ここでは、原型機の図を示す》

巨大重力波望遠鏡の原型機CLIOの見取り図(東京大学宇宙線研究所提供)

尾関 これから時間を取ってお話をしたり、あるいは実際に少し歩いてですね、いろんなところを見てみたいと思っているんですけど、とりあえずまず皆さんに、その雰囲気を今見ていただいているところです。今もう、何人かの研究者の方がちょっと映っていました。きょう神岡の外は結構暑かったんですが、中に入ってくると、すごくひんやりしました。ところが、この一角は結構暑いというか、暖かなんですね。それはたくさんの機器類が並んでいまして、まあ、コンピューターなどもそうですけど、そういう物が出す熱で結構あったかいですよね、梶田さん。

梶田 そうですね、ちょうどいいくらいな感じ。

尾関 ちょうどいいくらいな感じですね。はい、いかにも、大学の研究室がそっくりこう、鉱山の地下に収まったという感じもしますが、ただ、この後ろの方に見えている長いパイプ、これは100mございますから、やっぱりそういう意味では、大学ではできない。それから、やっぱり地下でなぜやるんだろうというのは、何といっても静かであるということがとても大事なことのようです。

実はもう既に、ごらんいただいているビューワーの方から、質問とかコメントとかをいただいていますが、埼玉県にお住まいの33歳の男性から、地底だと、マグマの音とか、ほかにも静かな環境でしか聞こえない音とか聞こえるのでしょうかと。さすがにマグマの音は。

梶田隆章さん

梶田 マグマの音は……。

尾関 聞こえません。

梶田 聞こえないですね。ともかく地下に潜るということは、地上ではいろんなノイズがあって測れないものを測ると(いうことです)。

尾関 なるほど。こういう重力波の検出実験というのは、大変に震動とか、そういうものをですね、嫌うんですね。そういう意味でいいますと、この神岡鉱山の地下というのは、今大変静かな環境であろうかと思います。はい。

尾関 要するにここで作ったレーザー光をこう、ぐるっと回して、ここからですね、2つに分けて、こっち方向とこっち方向にレーザーを飛ばして、こう、往復させるんですね。こう、鏡があって。そのことによって、時空のゆがみとか。

梶田 そうですね。

尾関 ですね。まあ、空間のゆがみっていうのがここら辺にこう出てくるわけでして、そのゆがみを、こういう大きな設備で見つけていこう、検出していこうと。

 それで、もう1枚フリップがあります。これが割と気を遣う部分じゃないかと思うんですけど、さっきのレーザー光を、鏡と鏡の間で反射させるんですか。

梶田 この装置ですと、100m、その間で光を何回も反射させるんですけども。

尾関 その鏡の1つがここに入っている?

梶田 そこに入っている。

尾関 それで、その鏡はですね、これはそこら辺にある鏡ではなくて、大変お高い鏡ですね。で、サファイアでできている。

梶田 はい。

尾関 サファイアは、まあ、宝石のサファイアと同じですよね。

梶田 そうですね。

尾関 なぜサファイアを使っているかという話はまた後でお聞きするとして、これは、それを普通に置いてあるんではなくて、すごく低い温度。

梶田 はい。

尾関 で、どのぐらいなんですか。

梶田 絶対温度で20K、つまり、我々の普通の零下何度というような、そういう単位で言えばマイナス253度ぐらいですね。

尾関 マイナス253度ですね。絶対零度というのはセ氏マイナス273度ですが、そこから20°ぐらい上がったところ、そのぐらいまで冷やしている。何か冷凍機などを使って機械的に冷やしているんですか。

梶田 はい。

尾関 皆さん、音がここに入って、拾っていますでしょうか? 後ろの方で音がしていると思うんですけれど、この音は、かなりの部分が、この冷凍機が出している音なんですね。そういう意味でも、これ本当にすごく、何というか、リアルなところでやっております。

 さあ、それで、先ほども申しましたように、きょう私ども、神岡の非常に暑いところからここへ入ってきました。これが一体どういうところにあるかというのを、ちょっともう収録済みのビデオでごらんいただこうと思います。

《神岡鉱山入り口付近などの映像。ここではビデオをお見せできないので、鉱山入り口の写真を載せる》

神岡鉱山の入り口

尾関 はい。今ごらんいただきましたように、何というか、緑深いですね、神岡の山のところにですね、この神岡鉱山の入り口がございます。そこの、ま、トンネル入り口からああやって車で入ってまいりました。あの入り口からここまで大体何キロですか。

梶田 大体1.8kmぐらいです。

尾関 大体1.8kmぐらいということで、まあ、10分はかからなかったですかね?

梶田 かからないですね。

尾関 ですね。ただ、ゆっくりゆっくり車で入ってきました。本当に街灯も何も無い、当然ですけど、そういうトンネルの中を入ってきました。

神岡鉱山地下の科学施設(東大宇宙線研提供)

尾関 これでいきますと、今の入り口って。

梶田 ここですね。

尾関 ここですね。それで、ずうっと真っすぐ来まして、この、このあたりに、いろいろな研究実験設備がございます。皆さんがよくご存知だと思いますのは、スーパーカミオカンデ、梶田さんもまさにここで大活躍されたんですけれども、このスーパーカミオカンデがまだここで頑張っています。これはカムランドという、東北大学が中心になってやっているところ。それから、ここにはXMASS、これが、さっきもちょっと申しましたダークマター、暗黒物質を見つけると。これはまだ、もう機械はできていますよね?

梶田 できて、観測しています。

尾関 そういう、まあ、非常に地下の科学都市といいましょうか、サイエンスシティーかと思います。ここにCLIOという重力波観測装置の原型機、数年後に完成させようと思っていらっしゃる大きなLCGTの原型機があると。で、LCGTは、ここにできるんですか。

梶田 そうですね。片方が3キロメートルのL字型の干渉計です。

尾関 長さベースで言うと、圧倒的に今までの物よりも大きい物ができるということですね?

梶田 はい。

尾関 これだけの物を使って探ろうとしている重力波について、きょうは、いろいろなお話を伺えるということになります。

 さて、それで、神岡の歴史を、ちょっと、梶田さんにお話ししていただきたいんですが、カムランドがあるところでしたっけ?

梶田 はい、そうです。

尾関 あの、カミオカンデ。

梶田 カミオカンデです。

尾関 ここにカミオカンデっていう、あの大変有名になった、小柴さんがノーベル賞をお取りになった、超新星からのニュートリノをつかまえたものがございました。で、それがほぼ終わったところで、今度はスーパーカミオカンデ、まあ、カミオカンデの後継機といいましょうか、後継世代になる観測施設が90年代に、まあ、大活躍をするわけですね。一番有名になったのが、1998年に、ニュートリノに重さがあると。ニュートリノという素粒子は本当に幽霊のような素粒子と言われていて、私たちの体をこう突き抜けていってしまうような素粒子で、すごく軽い、もしくは質量がないっていう前提でいろんな理論ができていたんですけど、そこに、質量があるということを突き止める実験をされて、これが、ノーベル賞級というふうに言われています。大きな発見として神岡に一つの歴史を刻んだことになるわけですが、梶田さんは、現場で中心的に仕事をなさった研究者であると言ってよろしいんですよね。

梶田 まあ、何と言っていいのか。

尾関 その辺のお話をちょっと梶田さんから、していただければと思いますが、カミオカンデのときからもうされていたんですか。

梶田 そうです。カミオカンデのときから、この研究をしていて、そのころから何となくニュートリノに質量がないと観測データが説明できないんじゃないかというような兆候は得られていたんですね。

尾関 なるほど、それで、その梶田さんがなさった観測というのは、宇宙からのニュートリノとはちょっと違うんですよね?

梶田 そうですね、ニュートリノに質量があるということを発見したのは、どのようなニュートリノだったかというと、宇宙から、ニュートリノではなくて宇宙線が飛んでくるんですけれども、それが地球大気に突入したときにニュートリノができるんです。そのニュートリノを観測していて、どうもニュートリノに質量がないと説明できないと、そういうデータを得たということですね。

尾関 よくこのご研究について、私たちは、地球を実験装置に使ったということを言うんですけど、たしか、あのときのニュートリノというのは、この神岡の上空から降ってくるニュートリノと、それから、この私たちの足元。

梶田 ええ、そうですね、はい。

尾関 地球の裏側から来るニュートリノを比べたわけですか。

梶田 はい、そうですね。

尾関 どういう違いが出てくるんですか。

梶田 結局データとしては、上から来るニュートリノは予想通りの数が来ていたんだけども、地球の反対側から長い距離走ってくるニュートリノは、予想の半分だったということです。これを説明するには、ある距離ニュートリノが走ったときに別なニュートリノになるという、ニュートリノ振動――これはニュートリノの質量で起こるんですが――それが起こっていないと説明できないと、そういうものでした。

尾関 まあ、地球の反対側から来るので少ないというと、普通はですね、何となく地球の内部のいろんな物質と相互作用して、それで減衰してくるんじゃないかと思ったりもするんですが、ニュートリノっていうのは幽霊粒子だから、ほとんど反応しないと。梶田さんがおっしゃったニュートリノ振動は、新聞ではよくニュートリノの変身というふうに言ったりするんですけど、ニュートリノに何種類かある中の、一つの種類から別の種類に変わるというような、そういうことがあって、結果として地球の反対側から来るニュートリノは半分の量しかなかった。予想よりも半分しかなかったと。これで質量ありという一つの結論を引き出された。これはすごく大きなご研究かなと思います。これからもノーベル賞とか、そういうことを考えるとき、我々が注視していかなきゃいけないご研究になった。また神岡が世界にいろんな発信といいますか、世界の人々から知られるようになるかもしれないということかなと思います。で、梶田さんご自身はそういうご研究をなさってこられたということですが、しかしきょうは、そのニュートリノの話よりも、これからここで始まろうとする重力波のお話をということでお出ましいただいたということです。

 さて、問題は、その重力波なんですけれども、さっきちょっと重力波というのは、時空間のゆがみですよっていうお話を伺いましたけれども、これはそもそも歴史的にはいつごろからなんだろうということで……。

 アインシュタインと言うと、相対性理論。で、これには特殊相対性理論というのが1つあります。これが1905年に発表されました。タイムマシンとかでご存知の方が多いんじゃないかと思います。で、その次に1916年に出したのが、一般相対性理論でして、これはどうなんでしょうか、重力の物理学と言っていいんでしょうか。

梶田 そうですね。

尾関 リンゴが木から落ちるとか、すべて重力なわけですけれども、それがどうして起こるのかというのを、空間とか時間のゆがみと結び付けて説明付けたということでよろしいんでしょうか。

梶田 はい。

尾関 で、アインシュタイン自体が予言したというより、一般相対性理論を通じて予言されたと言ったほうがいいんですか。

梶田 重力波?

尾関 重力波ですね。

梶田 これもアインシュタインが予言したということです。

尾関 ただ、やっぱりアインシュタイン自身も、かなり重力波では悩んだみたいですね。

梶田 まあ、そういうものを予言はするけれども、観測不可能だという。

尾関 なるほど。アインシュタインも悩みに悩んだんですが、しかし、一般相対性理論を理詰めに考えれば絶対にあるであろうと言われているものなんでしょうか。

梶田 そうですね。

尾関 はい、そろそろ、じゃあ、アニメーションに参りましょうか。その重力波なんですが、このつかまえる仕組みというのが、ちょっと分かりにくいと思います。そこを分かりやすくしたアニメーションを、宇宙線研究所監修でご用意になっていて、これは宇宙線研究所のサイトに入られるとごらんになれるので、また後でごらんになっていただいてもいいんですが、それを今ここで、一部省略させていただいて、放映いたします。

 

アニメーションを放映》

 

尾関 はい。さあ、どうでしょう、なかなか分かりやすいアニメでした。梶田さん。

梶田 いや、よくできていますよね。(笑)

尾関 監修者だから。

梶田 そう。私が説明するよりいいんじゃないかという感じがしますけれども。

尾関 皆さん、これで予習ができたんではないかと思います。これを踏まえて、梶田さんから、今日はいろいろと伺っていきたいと、このように思っています。まず重力波って何というお話をもう一度。さっきのこのアニメーションで、少年が僕が腕をぶるんぶるんしても重力波が出るのかなと言ったら、重力波出るのよっていう返事がありました。本当なんですか。

梶田 まあ、どのくらいの大きさかというような、そういうことを言わなければ、原理的には出ているというのが正しいですね。

尾関 なるほど。で、これは重さというか、質量によるんですか。

梶田 はい。

尾関 じゃあ、ダイエットし忘れたような人がやれば、いっぱい重力波が出ると?

梶田 いや、そのくらいじゃ、まだ駄目です。(笑)

尾関 そうですか。重さをもった物が、質量をもった物が激しく動いたりすると重力波が出るということですね。それで、じゃあ、どんなものがですね、重力波源としてあるかということですが、ちょっとこれで説明していただけますか。

1)平らな空間(2次元で考える)2)ゆがんだ空間(同様に2次元で考える)3)2次元空間で重力波はこのように放たれる=3枚とも神田展行さん(大阪市立大学)提供

梶田 そうですね、まずアインシュタインが考えた、その重力のメカニズムを簡単にこれで説明しようと思うんですけれども、この平べったい平面、これが空間だと思ってください。そこに何もなければ、この空間は平らなんですが、で、この空間は、例えばゴムあるいはトランポリンのようなものだと。そこに何か重い物を置いたとしましょう。そうすると、当然ですけど、ゴムあるいはトランポリンだったら、その重さでここが下がります。ま、このようなことが空間で起こっているので、下がったところにほかの物が近づいてくれば、ころころころと転げ落ちると。これが重力だというふうにアインシュタインは考えたわけですね。

尾関 これは、じゅうたんのような平面の上に物があるわけですけれど、これを、ちょっと想像力を働かせて、このじゅうたんみたいな平面が空間だと思っていただくと、このじゅうたんみたいなのがこう、ふわっとこう、へこむのと同じように、空間がへこむみたいな?

梶田 ま、空間がゆがむといいますかね。

で、このように重力を考えると、で、さらに考えを進めて、この空間の中に、例えば重い物が2つ激しく動いていたとすると、どういうことが起こるか。このように、何もないときには、このように単にへこむという空間のゆがみになるんですけど、激しく動いているような物があると、その動きが波として、そこから伝わってくる。

尾関 ああ、なるほど。

梶田 そのゆがみが伝わると、これが重力波になります。

尾関 ただこう、物を置いたときにゆがむだけじゃなくて、こう、それがこう、波紋を描いて広がっていくようなイメージでしょうか。

梶田 はい。

尾関 なるほど。今ここで梶田さんがおっしゃったのは、中性子星のペアみたいな物ですか。

梶田 はい。

尾関 そういう物っていうのは、まあ、あんまり地球の近くにはないわけですね。

梶田 そうですね。非常にまれな物ですね。

尾関 そうすると、まあ宇宙は広いですから、ほとんど無限にこうあるわけで、そこには、こういう物も散らばっている。

梶田 はい。

尾関 だから、遠くの物に目を凝らせば、つかまえることができるということなんでしょうか。

梶田 ま、そうですね。中性子星もそんなにあるわけじゃない、さらに、中性子星が連星になったような、そういうような物は、そんなに多くはないけども、少なくともそういう物があるということは分かっていて、したがって、広い宇宙をちゃんと観測できれば、そういうところからの重力波がとらえられるはずだというふうに考えています。

尾関 なるほど。はい、新しいフリップですが、これは今の中性子星のペアというのをちょっと説明していて、例えば太陽と地球っていうと、ま、太陽があって地球が回るみたいなイメージですが、この連星というのはちょっと違うんですね。

梶田 いや、ま、原理は同じだと思いますけれども、何が違うかというと、やはり非常に小さくて重い星だということで、お互いの周りをですね、かなりのスピードで回るというのが、ある意味大きい違いです。

尾関 つまり、何かこう、お互いの周りを回るみたいな回り方をするということになるわけですね。それで、重力波のいろんな候補、中性子星のペアというのがこれですよね?

梶田 はい。

尾関 それ以外にもあるということですか。これをご説明ちょっとしていただけますか。

梶田 そうですね、基本的にともかく、重い星が激しく動かないといけないのでそういうような物がどういうところにあるかなと考えますと、先ほど説明したのが、この連星中性子星がお互いの周りを回って最終的に合体するような、そういうものなんですけれども。ほかにですね、一番こちらにありますような超新星の爆発、これも巨大な星が一生の最後に一気に爆発、といっても内部では縮んでいるんですけれども、そういうようなことが起こっているということで、大きい、重い物が非常に速く一瞬動くということなので、そういう場合にも重力波は出るはずです。

尾関 なるほど。ちなみに、超新星から飛んできたニュートリノをつかまえたというのが、1987年の小柴チームのなさった仕事だということですよね。それから、このお隣がパルサー。これは?

梶田 パルサーというのも、重いコンパクトな星がくるくる回っているものですから、まあ、その回り方によっては、重力波が出ていてもおかしくないです。

尾関 なるほど、たしか超新星が最後どうなるかという行く末として、お隣のブラックホールもそうかもしれませんけれど、パルサーになる可能性もあるわけですよね。そのパルサーになってからでもくるくる回っているから、重力波を出す可能性がありと。これ、まさに皆さんご存じのブラックホールですね。ブラックホールもやっぱり?

梶田 ブラックホールも、例えば、ま、ブラックホール一つだけでじっとしているんだとどうしようもありませんけれども、もしもブラックホールが2つ連星になってお互いの周りを回っていれば、当然ですけど、中性子星よりもっと重いので、それはもっと、何というか、専門的には振幅の大きい重力波を出しますね。

尾関章

尾関 なるほど。そう言われてみると、超新星爆発でできるものが多いですよね。

梶田 そうですね。

尾関 こう、バルサーとか、ブラックホールとか。そういう、まあ重たい星で、密度の濃い、高い。

梶田 高い。

尾関 そういう物が重力波の発生源として考えられているということですね。なるほど。

 それで、あ、ビューワーからのご質問が、まさに今のこの話につながるんですけど、東京の20歳の男性の方ですけれど、中性子連星は、重力波を出すとして、常に地球に届いているんでしょうか、来ているんでしょうかっていう質問です。それはどうでしょうか。

梶田 そのように考えています。

尾関 なるほど。

梶田 はい。

尾関 ということは、まだ重力波って見つかっていないですよね、直接は。

梶田 はい。

尾関 だけど、気づいていないだけっていうことなんでしょうか。

梶田 測れていないだけという、そういう側面がありますね。

尾関 ああ、そうですか。もう人類の歴史の中ではもう繰り返し重力波を受けている?

梶田 というか、まあ、常に受けている。

尾関 常に受けている?

梶田 はい。

尾関 感度のいい人は、ひょっとしたら気付いているかもしれないということかもしれません。

梶田 後でこのLCGT、我々のプロジェクトの話になるかと思うんですけれども、常に重力波は来ているんですけれども、測定器で受けやすい重力波と、なかなか来ていても観測がしづらいものとあります。常に来ているんですけれども、測定器で観測しやすい重力波というのは、例えば今日の、これから話す測定器ですと、本当に連星中性子星がくるくる回って、やがて合体してブラックホールになる、その瞬間が非常に受けやすいので、ま、そういうところだけはとりあえず、まず最初に狙う、観測を狙うという、そういうことになります。

尾関 なるほど。人間ができるいろんなもののスケールとか、そういうものとうまくぴったり合うものをつかみ取るということなんでしょうか。

で、これから宇宙線研究所がなさろうと思っている、この重力波観測計画LCGT、これ、何かもうちょっといい名前が。

梶田 はい。おっしゃるとおりで、実は、まあ、プロジェクトが昨年始まったということで、やはりもっとこう皆さんに覚えていただけるような、そういう名前を付けることにいたしまして、実際、名前は付けさせていただきましたけど、公表についてはですね。もうちょっとこう注目していただけるような機会をとらえてやりたいというふうに思っています。

尾関 たしか公募でした?

梶田 はい、公募しました。

尾関 宇宙ファンとか天文ファンという方では、投稿というか応募された方がいらっしゃるんじゃないかと思いますが、ひょっとしたら、その方のがなるかもしれないということですね?

梶田 そうですね

尾関 で、このLCGTというのは何なんでしょうっていうことですけれども、L、C、G、Tと、ちょっと一つずつ言っていっていただけますか。

梶田 はい。Lはですね、まあ、これ、英語なんですけれども、Large-scale。

尾関 はい、「大きい」ですね、大規模。

梶田 そうですね、大規模。Cは、かなり専門用語ですけれど、Cryogenic、極低温。

尾関 低温、低い温度ですね。

梶田 ええ、低い。

尾関 極低温。

梶田 Gは、そのとおりでGravitational wave(重力波)ですね。

尾関 はい。で、Tは?

梶田 Tは、Telescopeです。

尾関 Telescope。

梶田 望遠鏡。

尾関 望遠鏡ですよね。

梶田 はい。

尾関 つまり、天に向かって重力波をのぞくという意味でテレスコープというふうに言っていらっしゃるということですね?

梶田 はい。

重力波望遠鏡は宇宙のどこまで「見える」か(東大宇宙線研提供)

尾関 さて、そのLCGTについて。3キロ×3キロの大きな物を神岡の山の下につくるわけですが、それで何を見るかというお話ですね。これ、なんかちょっと小さいから分かりますかね? これが地球ですね。で、この宇宙というのは、遠いところが過去を見ていることになるんですよね。まあ、ここら辺が、ビッグバンのところですよね、多分。宇宙誕生後約10万年ほどは、光は観測不可能。そうですね?

梶田 そうですね。

尾関 で、そういうスケールなんですけれど、ちょっとこれ、ご説明いただけますか。

梶田 はい。先ほども言いましたように、現在考えている重力波の検出器では、連星中性子星がお互いの周りを回って最後に合体すると、そういう現象をつかまえようとしています。で、先ほどもさらに言いましたけれども、これは、この広い宇宙といえどもかなりまれな現象です。したがって、重力波の測定器というのは、簡単に言えばどれだけ遠くまで観測できるかということで勝負が決まります。ここにあるんですけれど、まず日本で1990年代に東京・三鷹の国立天文台にTAMAという干渉計をつくったんですが、その干渉計でこのくらいまで、例えばここにアンドロメダ銀河と書いてありますけれど、そこら辺までが、まあ、見える装置だったと。

尾関 なるほど。

梶田 ただ、これは、そこまで見えてもですね、実際上重力波が観測にかかるというのは、まあ、非常な幸運でもない限りないと。で、さらに、次の線、ここにあるものですが、これが現在アメリカやヨーロッパで、まあ、ちょっと前まで動いていましたというか、そのくらいの言葉で正しいと思うんですけれど、現在まで動いていたアメリカ・ヨーロッパでの重力波の検出装置です。で、大分遠くまで見えるようになったんですけれど、これらの装置を使っても、大体信号は、ま、150年に一遍ぐらいしか期待できないということで、やはり残念ながら観測することはできていません。

尾関 なるほど。

梶田 で、現在宇宙線研で進めているプロジェクトというのは、7億光年先までが観測にかかって。7億光年先まで観測ができれば、まあ、年間に悪くても数回ぐらいは観測ができるんじゃないかというふうに考えています。

尾関 なるほど。これがLCGT、これからつくろうとしている3km×3kmということですね。それから、アメリカのがLIGO、ヨーロッパのがVIRGO。これも、それぞれ改良型として少しパワーアップしていくと。

梶田 そうですね。

尾関 あと、超新星なんかは、こんな遠くじゃなくて、もっとこの、我々の銀河系でも結構、見えないだけで、数十年に1回とか起こっているってよく言われますよね?

梶田 まあ、数十年に一遍か、50年に一遍か、多分そのくらいでしょうね。

尾関 なるほど。そうすると、そういうのがもちろんかかる可能性も?

梶田 もちろん、そういうのがかかる可能性あります。

尾関 あるということですね?

梶田 はい。

尾関 そういう意味では、非常にエキサイティングな、期待ができる観測だということかなと思います。はい。

 さて、それで少し重力波を検出する仕組みについて。アニメから行きますか。はい。じゃあ、さっきのアニメで、もう一度その重力波をつかまえる仕組みのところだけピックアップして流していただきましょう。

《アニメのこの部分のやりとりは採録する》

博士 ここからレーザーが発射されて、真ん中で2つに分かれるでしょう。それで、L字型に分かれたアームの先にある鏡に光が届くと、そこにある鏡でレーザーが反射されて。

少年 おおっ!

博士 ここにある検出器に入ってくるのね。重力波がないときは検出器は何も反応しないんだけど、重力波が宇宙からやってくると、2つに分かれたアームの長さが変わるのよ。すると、その長さを測っている2本のレーザーの光にも変化があって、2つのレーザーが1つに合わさると。

少年 あ、光った!

博士 そう。こうやって検出器が重力波に反応するのよ。

少年 なるほど。

《梶田さんと尾関が実験装置を見て歩く》

尾関 今またアニメをごらんになっていただいたかと思うんですけれど、重力波の検出ではレーザー光を使うということで、ここがレーザー光の発信源。

梶田 そうですね。

尾関 この、まさに発信源がここなんですね?

梶田 ここですね、はい。

尾関 どういう形で発信させているんですか、レーザーというのは、ここで。

梶田 これ、見えないんですけれども、赤外線のレーザーをここで発信させて、まあ、この大きいボックスの中で、ま、いろんな制御をしたりして、次の段階のこちらの装置の方へ打ち込みます。

尾関 なるほど。この、こっち側のパイプも、まあ、なんか調整用のパイプですね。

梶田 そうです、レーザー光を、何というのかな。

きれいにするような、そういう(ものです)。

尾関 重力波の観測とは関係ないということですね?

梶田 ま、でも、重力波を観測するための非常に高品質のレーザー光を作る装置です。

尾関 なるほど。この辺の一角が、まあ、いわばレーザー光工場と言ってもいいかなと思います。で、それが今カメラに映っているところで言うと、右手の方に行って。

梶田 はい。

尾関 あちらからだんだんと右の方向に。

梶田 そうですね。

尾関 赤外線レーザーが行くわけですね。

梶田 はい。

尾関 それで、実はそこに重要な、このレーザー光を2つに分ける装置が。

梶田 そうですね。向こうから来たレーザー光、このパイプの中を来たものが、ここで2つに90度別方向に分かれる、ま、そのような仕組みになっています。

尾関 スプリッターと言っているようですけど、2つにスプリットして、そして、右手の方に100mパイプが延びています。それから、左手のほうにも100メートル。つまり、ここがスプリッターですね、で、こっちとこっちに延びていると。で、今このカメラもとらえられると思いますけれど、パイプが、その画像だと、右方向と左方向に直角にこう、100メートルずつ延びているという、ちょうど私たちは、その交差点みたいなところに立っているということなんですね。はい、じゃあ。

梶田 こちらへ行きましょうか。

尾関 橋を渡りましょう。このパイプは、このように、橋のように渡って行くんですね。それで、まず最初に、赤外線レーザーは、鏡でいろいろと制御するというか、反射させて、何回も何回も反射させる、その鏡がここにございます。最初の方で、お高い鏡ですよって言ったサファイア、これも、梶田さん、サファイアですか。

梶田 これがサファイアの鏡。この装置で実際に使われているものと同じものです。

尾関 同じものですね。これは使ってはいないんですよね?

梶田 現在は、別なものが装置の中に組み込まれています。

尾関 こういう円筒形ですけど、この、要するに、こうやってこう反射するみたいな感じですか。

梶田 そうです。可視光で見ているので、どこが鏡なんだと言いたくなるんですけれども。

尾関 そうですね。

梶田 赤外線がちゃんと入ってくれば、ちゃんと反射する。

尾関 つまり、赤外線にとっては、ちゃんと鏡として働くということです。反射膜みたいなものがあるわけですね?

梶田 はい、そうです。

尾関 なるほど、分かりました。それで、次に、もう1つお見せしたいものがありますが、これは渡ってからですかね? はい、ちょっと私たち、眼鏡を着けます。今からこのふたを開けてくださるんですけれど、このふたの中にですね、何があるんでしょうか。梶田さんの方から。

防護用の眼鏡をつけて赤外線レーザーの検出器をのぞく

梶田 はい、先ほど100mの腕の中に光が行って来ると言いましたけれど、100m行って戻って来た光をここで受けまして、信号として取り出しています。

尾関 なるほど。

梶田 ちょっとやってもらいますけど。

尾関 見えるでしょうか。ちょっと赤く見えますよね。これ、本当は見えないんですね。赤外線なので見えないんですけど、見えるように細工をしてあって、赤いポイントが、赤外線が通っているところですか。で、今ちょうど近づけている、これがディテクターというものでよろしいんですか。検出器ですね。

梶田 はい。

尾関 ここで、赤外線の光を検出する。まあ、最終的な意味で、ここで光の情報を取るということになるのかと思います。私たちが眼鏡を着けているのは、この赤外線というのはやっぱり、やけどをしたりするんでしょうかね。だから、反射してきたりしたときのことを考えて、こういう眼鏡を着けているということです。

 それでは、次はもうこちらへ参りましょうか。それで、これからお見せするのが、梶田さんがさっきおっしゃった、低温にしている……。

梶田 そうです。

尾関 20K(ケルビン=絶対温度の単位)でしたっけ?

梶田 はい。

尾関 絶対温度20度。ちょっとご説明いただけますか。これ、どういう仕掛けになっているんですか。

右手の装置の中にサファイアの鏡が。低温にして熱振動を抑えてある

梶田 あ、じゃあ、ちょっと中に入りましょうか。

尾関 はい。はい、すみません、じゃあ。

梶田 このパイプの中にレーザー光が走っているんですけれども、ここに、まさに先ほど見ていただいたサファイアの鏡がつるしてありまして。

尾関 ああ、なるほどこの中に、今。

梶田 現在20Kまで冷えています。ま、当然なんですけれども、窓とかを置いて鏡が見えるようにすると、そこから一気に熱が入るので、冷やすことができませんから、これはもう完全に外から見えないような形で装置が製作されています。

尾関 で、この鏡はどう使っているかというと、ここに鏡を置いて、もう1つの鏡が。

梶田 100m先ですね。

尾関 ちょうど100m先に、ビニールシートの向こう側なんで、ちょっとカメラでもとらえ切れないと思いますが、100m先にも鏡があって、その鏡とこちらの鏡の間を、その赤外光が行ったり来たりしていると。

梶田 行ったり来たり、まあ、大体1000回ぐらいここで。

尾関 1000回も?

梶田 はい。

尾関 ああ、なるほど。これ、繰り返せば繰り返すほど重力波が検出しやすくなる、見えやすくなるということですか。

梶田 まあ、そういうふうに考えていただいていいと思います。

尾関 なるほど、分かりました。はい、じゃあ、そろそろ席の方に戻りましょうか。