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今年の数学大ニュース「ABC予想解決か?」から見えるもの

内村直之 科学ジャーナリスト

今年、驚かされた数学ニュースは、京都大学数理解析研究所の望月新一教授による「『ABC予想』解決か?」だった。12月5日、望月教授は研究集会で自分の成果を1時間にわたって話した。同研究所4階の大講義室は満員だった。講演は、私には難解そのものであった。しかし、そこからのぞくことのできる数学の世界は、深く広くとんでもない魅力を持ったものだった。
望月新一・京大教授

異才望月教授の大論文

 望月氏の異才ぶりは仄聞していた。「代数曲線の基本群に関するグロタンディーク予想」という難問を1996年までに解決、98年にベルリンで開かれた国際数学者会議(IMC)に招待されて講演(これは数学者にとって一大イベントである)したというし、この夏もある数学者から、2006年マドリードでのIMCで彼のフィールズ賞受賞が期待されていた、という話も聞いていたのだ。

 今年、4編総計500ページほどの論文「宇宙際タイヒミューラー理論(Inter-universal Teichmuller Theory)」を望月氏が8月30日に自らのホームページ上に発表した。ほとんど専門家しか知らなかったが、9月10日、科学ライターのフィリップ・ボール氏がネイチャー誌で「素数同士の深い関連に証明 数全体についてのABC予想の解は、本当なら、『驚くべき』業績」というニュース記事を書いた。それを追いかけて、ニューヨークタイムズ紙も日本の主要紙も望月氏の業績を報道したのである。

ABC予想とはなにか

 「ABC予想」という数学の問題は、

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