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アリの帝国、「体臭」の攪乱で崩壊するか

米山正寛 ナチュラリスト

 北海道石狩浜の10kmに及ぶ海岸線に、アリの「スーパーコロニー」がある。エゾアカヤマアリの巣がいくつもつながって一つのコロニーをかたちづくり、隣り合う巣のアリたちが家族同然に暮らしているのだ。これって、一般的なアリの常識からはちょっと外れている。アリの社会では普通、同種であっても異なる巣のアリならば敵として攻撃するため、巣ごとにもっと小さな範囲で活動するからだ。しかし、スーパーコロニーのアリたちは、巣が違っても互いにけんかをせずに同種内の競争を回避しつつ、競合する他種を排除して広く勢力を拡大することができる。

 スーパーコロニーをつくるアリは、どのように敵味方を識別し、こうした常識外の営みをしているのか。そのしくみは、はっきりとはわかっていなかった。ところが昨年、神戸大学や北海道大学の研究チームが、エゾアカヤマアリのスーパーコロニー内のいくつかの巣で働きアリの体臭(体表面の炭化水素の組成)を比べて「地理的に離れた巣同士でも匂いが概してよく似ており、スーパーコロニーの外に営巣する同種のアリと比べると匂いの変化が少ないことがわかった」という研究成果を発表した。

 特有の体臭で相手を感知して、敵と味方を区別するセンサー役の嗅覚感覚器は、アリの触角にある。そしてスーパーコロニー形成種の場合は、巣の違いではなく種の違いに敏感に反応するようにセンサーがセットされていて、同種に優しく異種に厳しい振る舞いをする変則ルールが適用されていることを突き止めたのだ。つまり、このような種では、働きアリどうしが攻撃し合うことなく近隣の巣の融合が起こることでスーパーコロニーがかたちづくられ、さらに拡大していく要因になったと考えられた。

 こうしたスーパーコロニーを形成するアリが、原産地の外へ外来種として広がると、厄介なことが起こる。侵入した地域にすむ在来のアリを駆逐して生態系の破壊や種の多様性の低下を招いたり、人間の生活をも脅かす存在となったりして、侵略的外来種に位置づけられることさえある。

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