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大学学長・総長のあり方の日米差〈下〉

〜混乱した京大総長選の背景と「大学の小鳥たち」

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 前稿ではカルテックの学長就任式典と、それに先立つ学長選考過程について紹介した。以下ではやはり今年動きのあった京都大学の総長選挙について述べ、日米の「雰囲気の違い」の中身を掘り下げてみたい。

京都大学の総長選考の「混乱」と、その背景

 京大では今年、総長の選出方法について、大きな変更があった(はずだった)。もともと京大では長年、助教(古くは助手)を含む教員が直接投票して、総長を選んできた。だが学外の有識者らが加わる選考会議は4月末、総長選考規定を改正して投票を「意向調査」に変更。結果をもとに、海外など外部候補者も含めて「総合的に判断」するとした。ただ結局6人の候補に外部者は含まれず、実質従来と違わない投票となった(何とも日本的な落とし所!)。

京都大学の次期総長に選ばれた山極寿一教授(右)と総長選考会議の安西祐一郎議長=2014年7月4日

 今年9月に任期を終えた松本紘(ひろし)総長の後任を決める投票だったが、1回目は過半数を得た候補がおらず、決選投票となった。その結果、ゴリラ研究の第一人者で人類学の山極寿一(じゅいち)教授(62)=前理学研究科長=がトップとなった。この「意向調査」の結果を踏まえ、「総長選考会議」が山極教授を次期総長に決めた(朝日デジタル、7月14日他)。

 筆者も(隣接分野なので)山極新総長の人となりを、直接間接に知っている。信望きわめて厚い人物で、本来選ばれるべき人をきちんと選んだ結果と言えそうだ。ゴリラ研究の停滞を恐れて「山極教授に投票しないで!」という裏返しのビラが学内に出回ったが、当局もこれを黙認したという(J-CAST 6月27日他)。人望を裏付けるエピソードと素直に受け止めていいだろう。だが前途は多難だ。

 背景には、「国際高等教育院」問題をはじめとする学内再編問題がある。文科省の意を受けて、前総長時代には「改革」への強引な動きがあり、これに対する各部局、教職員らの根強い抵抗と軋轢(あつれき)があった(教職員組合側からの批判を、以下で読むことができる:西牟田祐二『「学長リーダーシップ」論の虚構』、現代思想2014年10月号)。

 この件について詳しく論じる識見を筆者は持たないし、本稿の趣旨からも外れる。ただ筆者自身も1997年に東大を離れる前には「大学院重点化」をはじめとする様々な「改革」を経験している。その時の学内のざわついた空気を思い起こすと共に、「なんだ、まだ続いていたのか」というのが偽らざる感想だ。

 ざっくりと私見を述べれば、進行中の事態はこうだ。

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