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将棋「電王戦」:前代未聞の椿事で人間側が2連勝

プロ棋士とソフトの真剣勝負で起きた「想定外」、そしてその文明論的な含蓄

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 将棋のプロ棋士対コンピュータ の真剣勝負、「将棋電王戦 FINAL」第2局(3/21、高知城)で、将棋ソフト「Selene」が、永瀬拓矢6段の指した王手を「認識できず」反則負けした。「ソフトの反則負け」というニュースに、読者もたぶん「?」となったのではないか。「機械対人間」の近未来を占う深い含蓄があるので紹介したい。なお3/28の第3局はソフト「やねうら王」が稲葉陽7段に勝ち、 現在プロ側から見て2勝1敗となっている。

 今年の電王戦 を「FINAL」と銘打ったのには、これまでの経緯が関係している。このシリーズではソフトがこれまでプロ中堅を圧倒して来た。「人間のトップを超えるのも時間の問題」という認識が、暗黙の合意としてあったのだろう。そういう流れから「FINAL」として、プロ側が若手最強の布陣で望んだ団体戦で、実に近未来的な椿事が起きた。まずは「事件(事故?)」を振り返ろう。

何が起きたのか

 今回のシリーズ、斎藤慎太郎5段が別のソフトに快勝した第1局を受けての第2局。「89手目、王手放置により、Seleneの反則負け」。これが正式記録だ。

電王戦第3局。対局者の永瀬拓矢六段(右)と将棋盤をはさんでいるのは、「電王手さん」という指し手マシン。左の和服姿は、コンピューターソフト「Selene(セレネ)」開発者の西海枝昌彦さん=3月21日、高知市の高知城追手門

 後手番永瀬6段の優勢で進んだ終盤の88手目、角を王手で当然成り込む所を、永瀬(以下敬称略)は何故か「角不成」とした(それでも王手)。

 将棋を知らない読者のために説明すると、駒が敵陣に入り込んでパワーアップする状態を「成る」と言う。「不成」もルール上は許されていて駒の種類にもよるが、飛車、角、歩などでは、ほぼ成る方が選択される。例外は終盤のごく稀なケース(「打ち歩詰め」という反則を避けながら勝とうとする場合)に限られる。

 問題の局面では、角成でも角不成でも永瀬勝ちは動かなかったらしい。だが変化手順が増えてしまうだけなので、「不成」を選ぶ理由がない(ように見えた)。

 二コ動の解説者や視聴者コメントも含め全員が「?」となる中、局面を表示する画面が凍りつき、立会人(三浦弘行9段)や将棋連盟理事(片上大輔6段)はじめ関係者が慌てて協議を始める。そこを見ても想定外の事態だとわかる。この時

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