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緊急寄稿:洪水対策はどこまで可能なのか?

過去にない大雨が増え、遊水池=水田が消えゆく中での治水のありかたを探る

山内正敏 地球太陽系科学者、スウェーデン国立スペース物理研究所研究員

 台風18号の影響による記録的豪雨は多くの被害を出した。まずは被災者にお見舞いを申し上げたい。今回の被害の中でも鬼怒川の決壊は、人口の多い関東で起こっただけに、多くの波紋を残している。ネットではスケープゴートをでっち上げるような扇動も見られるが、議論の前に水害の基本をぜひ多くの方に知っていただきたく稿を起こした。

鬼怒川の堤防決壊現場=9月10日午後、茨城県常総市、本社ヘリから、岩下毅撮影

 まず、日本では昔から河川の氾濫や堤防の決壊といった水害が多く、政治の最優先課題のひとつであり続けた事実を指摘したい。私は宮崎市内で育ったが、子供のころは毎年数度、県内のどこかで冠水・浸水被害が出ていた。実家から200m離れたところを流れる農業用小川は毎年のように氾濫して、川に一番近い家がよく浸水していた。また近くの一級河川(大淀川)の対岸は大規模な氾濫の常襲地帯だった。

 だから、河川の改修や浚渫(しゅんせつ)も常に行なわれていた。私は中学〜高校生のころ、大淀川の氾濫しやすい右岸側だけでなく、大淀川河口に流れ込む2級河川が2つ、県の事業として改修されていく様子をつぶさに見てきた。そして、その際に、多くの家が移転を余儀なくされていたのも覚えている。そしてできた新しい川は、普段の水量に比べて恐ろしく広くて、こんなに必要だろうかと子供の浅はかな知恵で疑問に思ったほどだ。しかし、こうした河川の整備で、郷里の氾濫は確かに減ったのである。

 近代治水の歴史は1世紀を超える。最初の近代的長期計画は1910年に策定されている。戦後も1960年から5カ年計画という形が始まっている。そして、十年ほど前までは国の公共事業費の約7分の1がダムを含む治水事業に毎年あてられてきた。ダムや大型公共事業が見直しになり、また水害対策が選挙における票に昔ほどつながらなくなった今も、予算が削減されたとはいえ、かなりの投資がある。

 さて、一級河川の氾濫や決壊となると、これは集中豪雨の雨量ではなく、流域一帯での平均総雨量で決まる。それが今回は記録的だった。洪水を引き起こしておかしくない天災レベル(『高知徳島洪水は「天災」だが広島土砂崩れは「人災」だ』参照)だったということだ。しかし、それでも想定ギリギリの雨量だったからこそ、「堤防が青写真のとおりに完成していれば」という意見も出て来る。そして、それはある意味正しい。

 しかし、

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