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ノーベル賞連続受賞と大学ランキング急落

科学の花はすぐには咲かない〜近視眼化する研究・教育を憂える

下條信輔 認知神経科学者、カリフォルニア工科大学生物・生物工学部教授

 自然科学系のノーベル賞を日本人が連続受賞した。このニュースで、また理系ブームが沸きそうだが、不安も覚える。たとえば世界大学ランキングで東大がアジア首位から3位に滑り落ちたのをはじめ、京大など他大学も軒並み急落というニュースがあった。また国立大学の教育・人文社会系学部改革を巡っても混乱が続いている。日本の科学研究と教育は、本当に大丈夫なのか。

韮崎市の地元代表の小学生から花束を受け取り握手する大村智・北里大特別栄誉教授(左)=10月18日、韮崎大村美術館、 北村玲奈撮影

 現代社会の特徴である「近視眼化」が、日本の大学教育と科学技術で特に進んでいるように見えてならない。

理系ノーベル賞ラッシュに沸く

 日本の自然科学系のノーベル賞の受賞が近年相次いでいる。1987年利根川進氏の医学生理学賞以後、90年代は1人も出なかったが、2000年以降は受賞が相次ぎ、(米国籍の故南部陽一郎氏と中村修二氏を含めると)計14人が14年までに受賞。00年以降の受賞者数を国籍別で見ても、米国に次いで2位を誇る(朝日デジタル、10月6日;以下同)。

 直近で言えば2012年山中伸弥氏の医学生理学賞(iPS細胞の開発)、2014年赤崎勇氏ら3氏による物理学賞(青色発光ダイオードの発明)と、インパクトが高く話題性のある受賞が続いた。そして今年もまた梶田隆章氏(東京大)の物理学賞(ニュートリノ振動の発見)、大村智氏(北里大)の医学生理学賞(寄生虫病の特効薬開発)と、受賞理由を見ただけで「本筋」の受賞に沸いた(敬称略;http://uguisu.skr.jp/recollection/noberu.html)。

 ここだけ見ると、日本の科学は依然突出しているのか。そうとばかりも言えない兆候がある。

世界大学ランキングで軒並み急落

 英国の教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション』が、「世界大学ランキング2015-2016」を発表した(9月3日 ;以下 NEWSALT他による)。国際的にもっとも信頼されているこのランキングによると、昨年23位だった東京大学が43位に急落、アジアトップの座をシンガポール大(と2位につけた北京大)に奪われた。京都大学も昨年59位から88位など、日本の各大学は軒並み大きくランクを下げた。

 ノーベル賞の話題と関係ないと言えばないが、下げ幅の大きさと「軒並み」な点は気になる。このランキングの評価基準は公表されていて、それを見ると研究(30%;評判、教員の研究費獲得額、研究者ひとり当りの公刊論文数)と論文被引用(30%;論文1本当たりの平均被引用回数)の比重が大きい(ちなみに他の評価基準は教育30%、国際性7.5%など)。

 すでに日本の科学力の低下は、現実になっているのではないか(以下朝日デジタル、前出)。中国が台頭し世界全体の研究水準が上がる中、日本の研究論文数は年7万本前後でここ10年は横ばい。論文の引用回数で見ても、ほぼすべての分野で世界ランキングが低下している。大学院自然科学系の博士課程への進学率も、低下傾向にあるという。

 確か昨年2月だったか、下村博文文科大臣が「 ベスト100に10校入れたい、そのためには評価基準にあわせた戦略が必要」「その戦略のひとつが大学の国際化をめざすグローバル大学事業(公的補助金)だ」などと述べていたはずだ。いったいどうなっているのか。

時間差に目を向けろ

 「ノーベル賞量産」のニュースと「日本の大学の国際評価が急落」というニュースは、ちょっと矛盾して見えないか。

 ただここで気をつけてほしいのは、ノーベル賞クラスの研究評価は、確定するまでに時間差(それも数十年単位の遅れ)があることだ。実際受賞者は(今回も過去も)ほとんどが、30代〜40代前半の研究成果が評価されての受賞だ。

 この点を考えれば、整合性のある解釈ができる。 つまり日本の理系教育と研究は、かつては素晴らしい質を誇っていたが、今は環境も待遇も成果も、低下が著しい。その時間差が相次ぐニュースに表れた。

教育系・人文社会系学部改革と「理系重視」

 一見関係ないようだが複雑に絡んでくる問題として、教育系・人文社会系学部の「改革」問題がある。

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