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福島原発事故は終わっていない

政府が取り組むべき3つの課題

鈴木達治郎 長崎大学 核兵器廃絶研究センター(RECNA)副センター長・教授

 福島第一原発事故から5年が経った。だが、事故を起こした原発の廃炉はもちろん、地域の復興や避難された住民の健康問題など、恒久的な解決のメドが見えてきていない。一言でいえば「福島原発事故はまだ終わっていない」のである。今回は、福島事故後の5年間を総括して、事故を起こした廃炉措置と避難地域の除染・復興問題、避難住民の健康・福祉問題の3点に絞って今後の課題を展望する。

福島第一原発の廃炉措置:責任の明確化と透明性確保が課題

 2015年6月12日、政府の廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議は、福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップを2年ぶりに改訂した。今回の特徴は、スケジュールを多少遅らせても、全体的に「リスク低減」を強く打ち出したことだ。

東京電力福島第一原子力発電所の敷地内に林立する汚染水タンク=2016年2月3日、本社ヘリから、仙波理撮影

 汚染水問題も恒久的解決には程遠く、溶けた燃料の取り出し工法も大量発生している廃棄物の処理方法も未定だ。さらに大きな地震や津波、台風といった自然災害が再び訪れる可能性もあり、今後も万全の対策をしてリスクを最小限にしていかなければいけない。現場の作業員の健康問題や人材確保も大きな課題として残されている。

 しかし、最も深刻なのは廃炉措置全体に対する「信頼確保」の問題だ。廃炉措置に対する地元住民、国民、そして世界からの信頼はまだ決して高いといえない。事故を起こした東京電力が依然廃炉措置の主たる責任者であり、政府の責任が明確ではないことが、大きな不信感の素といえる。実は事故直後の原子力委員会では①地元住民を対象とした定期的な説明とコミュニケーションの場の設定②第三者機関により廃炉措置計画や遂行状況の検証、を提言した。これに対し、廃炉・汚染水対策福島評議会の設置や地元対策事務所の発足、外部専門家によるアドバイザー制度等が導入されてはいるが、いまだ十分とは言えない。

 「本当に世界の叡智と経験を集めて作業をおこなっているのか。現状の廃炉措置は世界の専門家から見て最善といえる措置なのだろうか」。こういった疑問が消えないのは、廃炉措置体制に対する不信が残っているからだ。責任の所在明確化と透明性確保、この2点を進めることが重要であり、長期的には国の責任で「福島廃炉措置機構」等の専門機関を立ち上げることも検討すべきだ。

除染・復興問題;住民参加型の意思決定プロセスを

 幸い、除染作業の努力の結果、自然減衰の効果もあって、地域の放射線レベルは明らかに改善の方向を示しており、放射線リスクという観点からだけ見れば、住民帰還の条件が予想以上に早く実現する可能性が出てきている。しかし、リスクが下がったからといって、すぐに帰還というわけにはいかない。快適に生活を過ごせる環境にはまだ至っていないからだ。また、避難解除の目安とされる年間20ミリシーベルトという基準に対する不信感も消えていない。除染の結果、大量に発生している汚染土壌の中間貯蔵、そして将来の廃棄物処分計画の見通しもまだ見通しが立っていない。中間貯蔵でさえ、地元住民や地権者の理解が一部でしか得られていないのが現状だ。

 実は、

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