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コンゴのコバルト鉱山が子供をむしばむ

スマホに欠かせない充電電池用コバルトは、どうやって採掘されているか

吉田文和 愛知学院大学経済学部教授(環境経済学)

 スマートフォンやモバイル、ノートパソコンなどに充電可能なリチウム・イオン電池がますます多く使われるようになった。コバルトはそのカギとなる元素で、世界のコバルトの過半はコンゴ民主共和国から供給される。しかし、その採掘の多くを児童労働が担っていると、世界的な人権団体・アムネスティ・インターナショナルが告発し、詳細な報告書を今年初めに発表した(“This is What we did for-Human Rights abuses in the Democratic Republic of Congo Power the Global Trade in Cobalt” by Amnesty International)。その報告書の内容をここで紹介して「スマホに潜む人権侵害」の実態を明らかにしたい(なお、『世界』2016年3月号「アムネスティ通信」参照)。

 世界のコバルトの過半がコンゴから

 コンゴ政府の推定によっても、コンゴから輸出されるコバルトの約20%が南部の小規模鉱山(職人鉱夫)から採掘される。この地域には、約11万から15万の小規模鉱山があり、より大規模な鉱業と並存している。コンゴの「穴掘り」(creuseurs)と呼ばれる職人鉱夫は、手道具で採掘し、深い地下から岩石を掘り出す。職人鉱夫は、7歳くらいの子供も含み、産業用鉱山の廃棄された副産物からコバルトを含んだ岩石を拾い出し、洗い、分別して売るのである。

コバルトの採掘で行われている児童労働。アムネスティの報告書から。

 この報告は、アムネスティ・インターナショナルとアフリカン・リソース・ウオッチが共同で行い、世界のコバルト供給のかなりの部分を担う小規模鉱山の条件を検証し、コバルトがどのように売買されているかを追跡するものである。これは世界のもっとも豊かなエレクトロニクス会社の多国籍企業のサプライ・チェーンに、コンゴのコバルトがどのように入るかに関わる包括的な分析である。

 その製品中のコバルトが、どこから来て、それが採掘売買される条件は、どのようなものかについて、またそれらの会社が人権に関わる「正当な注意義務」(due diligence)を、どのように行っているかについて、評価・検討している。

 コンゴ南部における小規模鉱山の勃興

 コンゴ民主共和国(DRC)は、世界の最貧国の1つであり、長年にわたり内戦と貧弱な統治に苦しんできた。1990年代に最大の国営鉱山会社が破産した後に、小規模鉱山が多くの人々にとって「生活の糧」になった。小規模鉱山は、第2次コンゴ戦争(1998-2003年)を通じて拡大し、その際、当時のカビラ大統領は、政府が産業鉱山を再興できないので、人々に対して、自ら鉱山を採掘するように奨励したのである。

 しかし政府がコンゴ南部で大変狭い地域を指定したので、多くの小規模事業者は、産業鉱山によってコントロールされていない地域あるいは境界において操業するようになった。

 地下で手のみなどを使う成人労働者の他に、多くの児童を含む鉱夫は、地域の産業用鉱石の廃石や尾鉱からコバルトを採掘する。地表近くの鉱物を含んだ鉱石を集めるが、会社の許可は得ていない。鉱石は洗いだされて、鉱山近くの川と湖の近くに貯蔵される。一般に、児童と婦人は

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