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英EU離脱で欧州の「緑」に黄信号

地球環境保護の牽引車、欧州のエコロジーに邪魔が入った

尾関章 科学ジャーナリスト

 英国の国民投票でEU(欧州連合)離脱が決まったとき、胸に去来した思いがある。英国の有権者は、せっかく広げた民意反映の回路をまた狭めてしまったな、ということだ。英下院は小選挙区制で議員を選んでいるので、ずっと保守、労働の二大政党が議席の大半を占めてきた。不遇なのが少数政党だ。地方議員の選挙では相応の議席を得ても、国政レベルで発言権を強めることには高い壁が立ちふさがっていた。

 そこに風穴を開けたのが欧州議会だ。国境を超える議会として1993年のEU誕生よりも早くからあり、79年以来、議員は欧州の有権者が直接選んできた。この選挙では英国も比例代表制をとっている(北アイルランドだけは「単記移譲式」だが、これも比例代表の精神にもとづく制度のようだ)。その結果、少数派にも道が開かれた。たとえば、離脱派急先鋒の独立党(UKIP)は、英国下院ではたった1議席しかもっていないが、欧州議会には22人を送り込んでいる。今回、党首として運動の先頭に立ったナイジェル・ファラージ氏もその一人だ(国民投票後、党首辞任を表明)。EU離脱となれば議会からも抜けるだろうから、皮肉を言えば彼らは自らの失職のために戦ったことになる。

 UKIPほどではないが、緑の党(組織としてはイングランド・ウェールズ緑の党)についても同様のことが言える。英下院ではやはり1議席だが、欧州議会の議員は3人いる。英国枠73議席のうちの3議席は、下院の1/650よりもずっと大きい。しかも欧州議会では、大陸の仲間と「緑」の会派をつくり、保守、社民、中道の諸会派と並んで一定の発言権を確保している。

 世界全体を見渡すと、緑の政治勢力のフロントランナーはドイツ(旧西独)緑の党と言ってよいだろう。1980年代前半に連邦議会へ進出して国政を動かす勢力となった。1998~2005年には社会民主党と連立を組んで政権の一翼を担った。同じころ、フランスの緑の党も閣僚ポストを得ている。英国の環境保護運動は国会に議席をもてないために非政府機関(NGO)を中心に進められてきたが、それでも欧州議会に緑の議員を送りだし、EU加盟国に強力な味方を得ることで一定の政治力を得たのである。

 今回の離脱派勝利で、英国の緑の勢力は一様に警戒感を募らせている。緑の党のキャロライン・ルーカス下院議員は党の公式サイトで「EU離脱の投票結果は、政府に対して現行の諸権利を切り崩したり、環境規制を切り下げたりする権限を委ねたことを意味しない」と釘を刺す。「今回の決定は環境を台無しにしかねない」として、二酸化炭素排出抑制の目標達成が不透明になったことを挙げ、「政府は、(温室効果ガス削減をめぐって)去年12月に合意したパリ協定や、気候変動法が定める国内目標を断固維持しつづけることを早急に表明する必要がある」と主張した。

 有力NGO、英国グリーンピースの指導者ジョン・ソーベン氏も同様のことを言う。

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